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ブログブログ

お金の貸し借りは慎重に~消費貸借の新たなルール~

2015.08.27

はじめに

 現行民法587条は,お金などの貸し借りに関する契約(「消費貸借」といいます。)の成立要件について定めています。

  一般に,契約は,2015年6月26日のブログ「まとまりました。」においてご説明致しましたように,原則として特別の方式を要せず,当事者間の合意のみで成立します(諾成契約)。

 しかし,一方で当事者間の合意のほかに,物の交付が必要な場合もあります。このような契約類型を要物契約といいますが,今回のブログに取り上げた消費貸借は,まさにこの要物契約の代表例であり,現行民法587条は消費貸借について,金銭等の「交付」があってはじめて効力が生じるものと定めています。

 

消費貸借が「要物契約」であることの弊害?

 ところが,現行民法が定めるように,消費貸借が要物契約であるとの原則を徹底すること,すなわち,消費貸借契約は金銭等の交付がなければ効力が一切生じないと考えることには,実務上様々な弊害があります。

  たとえば,貸主側としては,貸した金銭等をできる限り確実に回収するため,金銭の交付に先立ち,消費貸借の公正証書(執行証書)を作成したり,担保として借主の有する不動産等に抵当権を設定したりするのですが,消費貸借が要物契約であるとの原則を徹底すると,上記公正証書を作成する段階,抵当権を設定する段階では,いまだ消費貸借契約それ自体が成立しておらず,ひいては上記公正証書や抵当権の効力につき疑義が生じかねません。

  このような弊害については,判例において合意のみで成立する消費貸借(「諾成的消費貸借」といいます。)を認めることで,一応の対応は図られてきましたが,やはり民法587条の文言との間に乖離があることは否定できず,いっそのこと消費貸借を諾成契約として規定してみてはどうか,との議論が法制審議会において検討されてきました。

 

改正案の内容

 上記検討を経た結果,民法改正案において消費貸借は,以下のとおり規定されています。

① 要物契約と諾成契約の併存

 民法改正案では,消費貸借を全面的に諾成契約化するのではなく,金銭等の交付により成立する要物契約としての消費貸借を残すとともに,書面によって当事者間で合意が成立した場合には,その合意のみで消費貸借が成立するものとされています。

 このように,民法改正案では,新たに諾成契約としての消費貸借を認めることとしたのですが,契約が有効に成立するための形式を書面によると限定しています。すなわち,要物契約としての消費貸借と,諾成契約としての消費貸借(書面に限る)が併存していることになります。

 民法改正案が,一方で上述した実務上の問題点に応えつつも,他方で要物契約としての消費貸借を維持し,かつ,口頭のみで成立する諾成契約を認めなかったことは,消費者の不用意な借入れを防止できる点において,評価することができるでしょう。

② その他の改正点

 また,民法改正案においては,電子メールなどの電磁的記録による場合も書面によるものとして,消費貸借の成立を認めています。

 さらに,民法改正案は,上述した書面による消費貸借について,契約が成立してから実際に目的物の交付を受けるまでは,借主は,同契約が利息付きか無利息かを問わず,契約を解除できることを認めました(「目的物交付前解除権」の新設)。ただし,同案が,この解除により貸主に損害が生じたときは,貸主が借主に対して損害賠償できることを明記している点に留意する必要があります。

 残された課題

 今まで見てきましたように,今回の民法改正案が,要物契約としての消費貸借に加え,実務上の要請に応える形で,一定の要件の下で諾成契約としての消費貸借を認めたことは,多分に評価できるでしょう。

 しかし,今回の民法改正案では,書面による消費貸借について,目的物交付前解除による損害賠償の規定が新設されましたが,これは,事実上借主の解除権を制限し,損害の拡大解釈を許すおそれを孕んでおり,借主としての立場にある消費者を保護するという観点からは重大な懸念があります。

 この点に関しては,貸主の借主に対する損害賠償の対象を,特別な事情に基づく損害に限ることや,より抜本的に,消費者契約法を併せて改正して,消費者借主は目的物の交付前に解除をしても損害賠償義務がないとする特別規定を制定するなどの措置が必要であると思われます。

                                                       弁護士 伊庭裕太