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諦めるにはまだ早い~合意による時効の完成猶予制度の新設~

2015.06.03

はじめに

前回のブログでは,今回の民法改正により,消滅時効期間等の見直しが行われる見込みであることについて書きました(詳細は「あなたのその権利、まだ生きていますか?~見直される消滅時効期間~」をご覧ください)。

今回は,「時効の完成を阻止する!」という視点でブログを書かせていただこうと思います。

時効の完成を妨げる事由とは

「今から6年ほど前,取引先の会社が運転資金に困っているというので,500万円を貸してあげました。長い付き合いの会社だったので,借用証書は作成しませんでした。そして,1年後の平成22年5月末日,約束した返済日を迎えたのですが,当時の社長は既に交代しており,お金を借りたという資料も残ってないので,返済することはできないと言われてしまいました。一時は諦めていましたが,最近その会社の新商品が爆発的にヒットし,財務状態もかなり改善しているようなので,2か月ほど前,メールで再度返済を求めたところ,いろいろ調査する必要があるのですぐには返答できないが,近いうちに協議の場をもちましょうというような返信がありました。私ももちろん快諾しましたが,その後ものらりくらりとかわされ,一向に話し合いの機会を設けてもらえません。どうしたらよいでしょうか。」

 このようなご相談が寄せられた場合,われわれ弁護士は,まず,銀行の取引明細を確認したりご本人のお話を聞いたりし,そもそも本当に金銭の貸し借りがあったのかどうか,約定返済日から既に時効期間が経過してしまっていないかどうかといった点をチェックします。

そして,約定返済日から既に消滅時効期間が経過してしまっている場合には,その間,時効の完成を妨げる事由がなかったどうかをチェックします。

 現行民法は,時効の完成を妨げる事由として,「時効の中断」と「時効の停止」という規定を置いています。

 「時効の中断」とは,進行中の時効をその時点でストップさせ,権利を請求できる状態を保持しておくものです(なお,中断した時点から再び時効がスタートします。)。

 「時効の停止」とは,天災により時効の中断措置を執ることができなかった場合など,時効の中断措置を執ることが一般に困難と認められる場合に,時効の中断措置を執るための猶予期間を付与するものです。

 本件において,相談者の債権は会社の運転資金としての貸金債権であり,商事債権となりますので,5年の消滅時効期間に服します。

そして,約定返済日が平成22年5月末日であるとすると,平成27年5月末日の経過をもって本件では既に消滅時効期間が経過してしまっていることになります。

しかしながら,その間,相談者が訴訟の提起等の時効中断措置を執ったような事実は見受けられず,また,時効の停止事由も特に見受けられませんので,時効の完成を妨げる事由は存在しません。

したがって,現行民法下においては,借主である取引先会社が時効による債権消滅を主張した場合(これを「時効の援用」といいます。),相談者の貸金債権は時効により消滅してしまうことになります。

合意による時効の完成猶予制度の新設

民法改正案では,新たに,協議を行う旨の合意による時効の完成猶予の制度を盛り込むことが予定されています。

この制度は,権利について協議を行う旨の合意がされたときは,①その合意があった時から1年を経過した時,②その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは,その期間を経過した時,③当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは,その通知の時から6か月を経過したとき,のいずれか早い時までの間,時効は完成しないとするものです(なお,ここでの合意は,書面又は電磁的記録によってなされなければなりません。)。

このような制度があった場合,本件の結論はどのように変わってくるでしょうか。

時効期間が経過してしまっていることについては同様ですが,相談者は,2か月ほど前の平成27年4月,取引先会社との間でメールのやり取りをし,500万円の貸金の返済について近いうちに協議する旨の約束をしています。

協議を行う旨の合意が電磁的記録によってなされる場合,その方式に制限はありませんので,電子メール上のデータ(電磁的記録)も含まれるものと考えられます。

したがいまして,本件では,協議を行う旨がメールで合意された日から原則1年間,時効は成立しないこととなり,相談者の貸金債権は保持されることになります(もっとも,協議する旨の合意がどの程度明確である必要があるかといった点は,今後の解釈に委ねられています。)。

おわりに

企業にとって,債権管理というのは非常に大切な業務の1つです。

消滅時効制度というのは債権管理と密にかかわって参りますので,企業の法務担当者の方々としましても,民法改正に無頓着ではいられないことでしょう。

また,本件では電子メールでのやり取りが決め手となっていることからも明らかなように,電子メールの保存・管理といった点も非常に重要になって参ります。

 弁護士は,これらの点についても,リスク管理の観点から適切なアドバイスを差し上げることが可能ですので,お気軽にご相談いただけると幸いです。

                                         弁護士鈴木晴哉