メニューを開く  メニューを閉じる
2017/03/01 日比谷ステーション法律事務所の弁護士名を騙った詐欺にご注意ください
Google+
ブログブログ

あなたのその権利、まだ生きていますか?~見直される消滅時効期間~

2015.05.17

「そういえば,何年か前に友人に10万円ほど貸したけど,まだ返して貰ってないな。そろそろ返して貰いたいけど,どこかで時効って制度があるって聞いたことがあるなぁ…まだ返して貰えるのだろうか…」

現行民法は,一定の時間の経過により債権等の権利を消滅させる消滅時効制度を設けています(民法166条以下)。

この消滅時効制度は,長期にわたって存続している事実状態を尊重して,その事実状態を前提として構築された社会秩序や法律関係の安定を図ること,権利を行使できるにもかかわらず,これを行使しない者は保護に値しないこと(「権利の上に眠る者は保護に値せず」などと言われます。)等を理由に設けられたものと,一般的には説明されます。

しかし,現行民法が定める消滅時効制度には,今日において様々な批判が投げかけられているところであり,これを受けて,今回の債権法改正では,消滅時効期間等の見直しが行われる見込みです。

現行民法の規定

現行民法は,債権が消滅する時効期間を原則として10年(民法167条1項)としつつ,例外として,短期消滅時効期間を設け,ある債権がどのような職種に関して発生したものであるかによって区別し,3年,2年又は1年の時効期間を定めています(民法170条~民法174条)。また,商行為から発生する債権(「商事債権」といいます。例えば,貸金業者の消費者に対する貸付債権がこれに当たります。)については,5年の消滅時効期間が定められています(商法522条)。

例えば,冒頭の貸金を返還するよう求める請求権は原則通り10年の時効期間となりますが,飲食代のツケに関しては1年(民法174条4号),いわゆる売掛代金債権については2年(民法173条1号),医師の診療報酬については3年(民法170条1号)といったように,短期の時効期間が個別的に定められています。

他方,不法行為に基づく損害賠償請求権(例えば,交通事故により人身損害を負った場合に,この損害を賠償するよう加害者に求める請求などがこれに当たります。)の消滅時効期間は,損害及び加害者を知った時から3年となっており,不法行為時(交通事故の例で言えば,正にその交通事故が起こった時です。)から20年が経過した場合には,その期間の経過をもって損害賠償請求権が消滅するものと定められています(民法724条)。そして,後者の20年の期間制限については,その中断や停止が認められず,その期間の経過をもって当然に損害賠償請求権が消滅するものと解釈されています(これを講学上,「除斥期間」といいます。)。

現行民法の規定に対する批判

このような現行民法の規定に関しては,以前より,以下のような批判が投げかけられていました。

① 短期時効消滅時効制度は,どの規定の適用があるか不明確であり,債権の種類毎に短期時効消滅の該当性を確認する必要がある点で煩雑である。

② 商事債権の消滅時効期間は5年であるのに対し,通常の債権の10年という消滅時効期間は長すぎる。

③ 不法行為に基づく損害賠償請求権については,特に人身損害による損害賠償請求権の時効期間が短く,被害者保護に欠ける。

④ 人身損害のうち,潜伏期間から損害(症状)が発生するまでの期間が長い場合(じん肺損害などの公害事案を想定して下さい。)に,被害者本人が気がつかないうちに時効期間が完成してしまうのは不当である。

みなさん,いかがでしょうか。上記②の批判はともかく,その他の批判については,一般人の感覚にも馴染みやすい,至極まっとうな批判であるように思われます。

このような批判を受け,現行民法における消滅時効制度は,以下のように改正される見込みです。

原則的な消滅時効期間の見直し

まず,原則として,債権の消滅時効期間は,権利を行使することができる時から10年とし,債権者が権利を行使することができることを知った場合は,その時から5年で消滅するという短期消滅時効期間が新たに設定される見込みです。

この点,多くの場合には,債権者が権利を行使することができる時にそのことを知ったと言えますので,今後は債権の消滅時効期間は5年になることがほとんどと考えられます。

他方で,会社の業務上の債権などの商事債権は,これまでも5年の時効期間であったため,従前とほぼ変わらない運用がなされることになります(なお,これを受けて,商事債権の消滅時効期間を定める商法522条は,この度の民法改正にあたり削除される見込みです。)。

この改正案は,前記した②の批判に応えるものと評価できるでしょう。

しかし,必ずしも迅速に訴訟提起等の法的手続をとることが困難な人(例えば,事業者ではない個人=消費者を想定して下さい。)にとっては,上記のように債権の消滅時効期間が現行民法より短くなることは,その法的保護を受ける機会が減少する可能性があることを意味します。消費者保護という観点からすると,上記改正案は「後退」を意味するものとも言えますので,この点にはわれわれ実務家を含め,十分注意する必要があります。

短期消滅時効制度の廃止

次に,現行民法の定める短期消滅時効制度(民法169条~174条)は,廃止されることになる見込みです。

この改正案は,前記した①の批判に応えるものと評価できるでしょう。

ただし,このことは,従前であれば1年~3年で消滅時効期間の経過により消滅していたはずの債権が,少なくとも5年間は時効により消滅しないことを意味します。したがって,消費者被害救済という観点からは,マイナスになる可能性があることに留意するべきでしょう。

生命身体侵害による損害賠償請求権の消滅時効期間(新設)

不法行為に基づく損害賠償請求権については,全体的な規律として,不法行為時から20年が経過した場合には,当然に損害賠償請求権が消滅すると解釈されていること(「除斥期間」との解釈)を見直し,これが時効期間であることを明示するよう改正される見込みです。これにより,不法行為時から20年間という期間制限についても,時効の中断や停止があり得ることとなり,ただ20年間が経過したという一事をもって,損害賠償請求権が消滅するという事態は無くなることになります。

この改正案は,前記した④の批判に応えるものと評価できるでしょう。

さらに,改正民法は新たに,不法行為に基づく損害賠償請求権のうち,生命身体侵害(いわゆる人身損害)による損害賠償請求権の消滅時効期間については,損害及び加害者を知った時から5年に伸長され,加えて不法行為時から20年で時効消滅するという規定を新設する見込みです。

この改正案は,前記した③の批判に応えるものといえ,被害者保護という観点からは,大変評価することができます。

しかし,この新設規定は,生命・身体が侵害されたことによって生じた損害賠償請求権については,それが債務不履行に基づくものであれ,不法行為によるものであれ,一律に適用されることとなります。したがって,人身損害の損害賠償請求のうち,債務不履行(契約上の安全配慮義務違反〔他人の生命・身体に配慮しながら債務を履行すべき義務に違反すること。〕)として構成可能なもの(労災事件などが代表例になります。)まで,5年で時効消滅することになり,現行民法の消滅時効期間(10年)よりも短期に損害賠償請求権が消滅してしまう事態が考えられることに注意するべきでしょう。

総括

以上のように,今回の消滅時効期間にかかる改正案は,概ね評価できるものと言えそうですが,同時に,様々な問題点を抱えていることにも留意するべきです。

したがって,この民法改正を「改悪」としないためにも,われわれ実務家は,これまで以上に消滅時効制度に対して敏感に接していく必要がありそうです。

ちなみに,今回の民法改正における消滅時効制度の見直しにおいては,今までに述べて参りました消滅時効期間の見直しのほかに,時効の猶予・更新制度等も新しく設けられることになっています。この制度も実務上及ぼす影響は大きいものと考えられますので,また回を改めて紹介できればと思います。

                                               弁護士 伊庭裕太