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基礎知識基礎知識

有価証券報告書虚偽記載に基づく株主の損害賠償請求(オリンパス事件を念頭に)

2011.11.18

1.はじめに

前稿ではオリンパス事件を念頭に株主代表訴訟の手続の概要を説明しました。
平成23年11月8日にオリンパス社より「当社が、1990年代ころから有価証券投資等にかかる損失計上の先送りを行っており、Gyrus(ジャイラス) Group PLCの買収に際しアドバイザーに支払った報酬や優先株の買戻しの資金並びに国内新事業三社(株式会社アルティス、NEWS CHEF株式会社および株式会社ヒューマラボ)の買収資金は、複数のファンドを通す等の方法により、損失計上先送りによる投資有価証券等の含み損を解消するためなどに利用されていたことが判明」した旨が公表されました。また、平成23年11月17日には、「過去に提出した有価証券報告書等の訂正が必要となる見通しとなった」旨が公表されました。そのため、オリンパス社の過去の有価証券報告書には虚偽記載等がなされていた可能性が高いと考えられます。
そこで、本稿では、オリンパス事件を念頭に、有価証券報告書の虚偽記載等により損害を被った株主自身を直接の被害者とする損害賠償請求について説明します。具体的には、金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)の規定に基づく損害賠償請求と不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求が法的根拠となります。

2.金商法に基づく損害賠償請求

(1)損害賠償責任が成立するための要件

金商法第21条の2第1項及び同第24条の4、第22条第1項、第21条第1項第1号及び第3号により、次の要件を充たす場合に損害賠償責任が成立します。

  • (あ)有価証券報告書等の重要事項に虚偽記載が存在し、又は記載すべき重要事項等の記載が存在しないこと
  • (い)開示書類が公衆縦覧されている間に流通市場で当該有価証券を取得したこと
  • (う)虚偽記載等によって損害が発生したこと
  • (え)当該有価証券取得者が取得の申込みの際虚偽記載等を知らなかったこと

(2)請求の相手方

上記要件を充たす場合、金商法による損害賠償を、(a)有価証券報告書等を提出した会社(金商法第21条の2第1項)、(b)有価証券報告書を提出した当時の役員等 (取締役、監査役等、金商法第24条の4、第22条第1項、第21条第1第1号)、(c)有価証券報告書に監査証明をした公認会計士または監査法人(金商法第24条の4、第22条第1項、第21条第1項第3号)に対して行うことができます。
ただし、(b)については、役員等が、虚偽記載等の事実を知らず、かつ、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったことを、(c)については、公認会計士または監査法人が、監査証明をしたことについて故意または過失がなかったことを証明した場合には免責されます。これに対し、(a)の会社については無過失責任となります。

3.不法行為に基づく損害賠償請求

ある行為によって他人に損害を生じさせた場合、当該行為者には、原則としてその損害を賠償する責任が生じます(民法709条)。これを不法行為責任といい、例えば、交通事故の被害者が加害者に対して損害賠償請求をする場合も、これを法的根拠とします。有価証券報告書の虚偽記載等により損害を被った株主も、この不法行為に基づき損害賠償請求ができるものと考えられています。
一般に、不法行為責任が成立するための要件は、
(あ) 加害者に故意または過失があること
(い) 権利侵害または法律上保護される利益の侵害(違法性)があること
(う) 損害が発生したこと
(え) 加害行為と損害との間に因果関係があること
とされています。
これらを有価証券報告書の虚偽記載等の事案を前提にあてはめると、虚偽記載等のある有価証券報告書を提出し、投資家に開示する行為に違法性があることは明らかですから、上記(い)の要件は認められるのが通常です。また、オリンパス事件のように、長期にわたり多額の粉飾がなされたケースにおいては、事実関係の調査結果にもよりますが、少なくとも過失はあったとして、上記(あ)の要件も認められるものと思われます。そこで、上記(う)及び(え)の要件が立証できれば、株主は会社、役員等及び公認会計士または監査法人に対し損害賠償請求ができます。また、これらの者が共同して不法行為に及んでいた場合には、共同不法行為(民法719条)として、連帯して損害賠償責任を負うことになります。

4.いずれの法的根拠に基づき請求するべきか

上記のとおり、金商法の規定、不法行為のいずれの法的根拠に基づいても、損害賠償請求権の発生という効果が生じます。では、訴訟においてはいずれを選択すべきでしょうか。

(1)金商法の規定による立証責任の緩和

民事訴訟では、ある権利を主張する者が、その権利の発生根拠となる事実を立証しなければならないのが大原則です。この点、有価証券報告書の虚偽記載の事案において、株主は、上記2で述べた各損害賠償請求権の発生根拠として、損害の発生および虚偽記載との因果関係を立証する必要があります。しかし、有価証券の虚偽記載に「よって」生じた「損害額」、すなわち株式の下落額の立証は、株価が複雑な要因によって変動するものである以上、困難と言わざるを得ません。 この点、会社に対して金商法の規定に基づく損害賠償請求をする場合には、同21条の2第2項により、虚偽記載等があることが公表された日(公表日)からさかのぼって1年以内に有価証券を取得し、公表日まで継続保有した株主は、公表日前1か月間の市場価格の平均額から公表日後1か月間の市場価格の平均額を控除した額を損害の額とすることができるとして、損害の発生および因果関係の立証責任が緩和されています。ただし、同条第5項により、裁判所が判断する相当な額を、虚偽記載等と無関係な株価の下落分として損害額から控除されることがあります。この損害額の推定規定は、役員等、公認会計士または監査法人に対して損害賠償請求をする場合には適用されませんので、注意が必要です。 なお、下表のようにオリンパス社の株価が推移しているオリンパス事件において、公表日が、上記1で引用したプレスリリースを行った平成23年11月8日や同月17日、あるいは今後に予定される調査委員会による詳細な事実を含む調査報告書を開示する日となるのか、上記のみなし規定による損害額が妥当であるかが大きな論点になると思われます。

【表】 オリンパス社の株価の推移と主な公表事項

日  付 オリンパス社による主な公表事項 株価終値
9月14日(水)~
10月12日(水)
  2,025円~
2,448円
10月13日(木)   2,482円
10月14日(金) 英国人代表取締役解職等の公表 2,045円
10月17日(月)   1,555円
10月18日(火) 「すべてのM&Aは適正な手続き・プロセスを経たうえで会計上も適切に処理し、実施」している旨の公表 1,417円
10月24日(月) 「ジャイラス社を含む当社グループの2009年3月末の連結財務諸表に関する監査報告書は、前監査法人より無限定適正意見を受領しており、決算手続きは適切に行われていると考えて」いる旨の公表 1,099円
10月25日(火)   1,189円
10月26日(水) 日本人代表取締役の異動の公表 1,099円
10月27日(木) 過去の買収に関する詳細と「当社による新事業3社の買収に関して違法もしくは不正な点があったという事実は」ない旨等の公表 1,355円
11月1日(火) 第三者委員会設置の公表 1,206円
11月4日(金) 平成24年3月期第2四半期決算発表予定日の延期の公表 1,118円
11月8日(火) 過去の損失計上先送りに関する公表(上記1参照)、ならびに第三者委員会の調査対象拡大及び副社長・常勤監査役の異動の公表 734円
11月10日(木) 平成24年3月期第2四半期報告書提出遅延見込みおよび監理銘柄(確認中)指定見込みの公表 484円
11月11日(金)~
11月16日(水)
  460円~
740円
11月17日(木) 過去の有価証券報告書等の訂正見通しの公表 747円
11月18日(金)~
12月5日(月)
  625円~
1,107円
12月6日(火) 第三者委員会による調査報告書の公表 1,190円

*オリンパス社の過去の株価の推移は下記のURLで確認できます。
Yahoo!ファイナンス – オリンパス(株)株価情報

また、金商法の規定に基づき損害賠償請求をする場合には、不法行為責任に基づき損害賠償請求をする場合と比較し、故意または過失の要件が、上記2(2)で述べたとおり、会社との関係では立証不要となり、役員等及び公認会計士または監査法人との関係では、立証責任が転換されています(株主が故意または過失を立証するのではなく、役員等及び公認会計士または監査法人が無過失を立証しなければならない)。
このように、金商法の規定を法的根拠として選択すると、立証責任の点で訴訟上大変重要なアドバンテージ(有利点)が得られることになります。

(2)株式の取得時期による選択

金商法の規定に基づく損害賠償請求権は、有価証券報告書の提出時から5年の時効に服します(金商法第21条の3、第20条)。この場合には、株主は、金商法の規定を法的根拠とすることはできず、20年の時効期間が認められる不法行為(ただし、損害及び加害者を知ったときから3年の時効に服します。)に基づく損害賠償請求をすることになります。また、上記のとおり、金商法第21条の2第2項による損害額の推定を受けられるのは、公表日からさかのぼって1年以内に有価証券を取得し、公表日まで継続保有した株主に限られます。
このように、株式を取得した時期によって、選択しうる法的根拠や立証責任の負担が異なります。この点、不法行為に基づく損害賠償請求を選択する場合には立証責任の負担が重いとも思われますが、類似の事案において、損害の発生を認めている裁判例があります。これについては、損害の考え方と併せて、次稿にて掲載予定の「有価証券報告書虚偽記載に係る裁判例の検討」をご参照下さい。

5.まとめ

有価証券報告書に虚偽記載があったオリンパス事件においても、事実関係の調査結果を検討した上で、会社、役員及び監査法人に対し、上記のとおり株式の取得時期に応じて、金商法の規定または不法行為に基づく損害賠償責任を追及していくことになります。
次稿にて掲載している「有価証券報告書虚偽記載に係る株主訴訟裁判例の検討」では、オリンパス事件と類似の事案において、上記の法的根拠に基づき株主が損害賠償請求をした裁判例(西武鉄道事件、ライブドア事件)をご紹介したいと思います。

有価証券報告書虚偽記載に係る株主訴訟裁判例の検討(オリンパス事件を念頭に)

6.追記 マンション開発「株式会社ランド」の粉飾疑惑

2012年12月5日の日経新聞夕刊14面に東京証券取引所1部上場企業である「株式会社ランド」が、不動産の売却にからみ粉飾決算をした疑いがあるとして、証券取引等監視委員会(SESC)が金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで強制調査をしたと報じられました。
現時点では、 SESC(又は同社が設置する調査委員会)による更なる事案解明をまつ必要がありますが、基本的な法律的な問題点は、オリンパス事件に係る上記の内容が妥当することになります。