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基礎知識基礎知識

更新料無効訴訟の帰趨

2011.06.28

1.更新料の概要

名称はさまざまですが、更新料とは、賃貸借契約の契約期間が満了し、当該契約を更新する際に、賃借人から賃貸人に対して契約更新の対価として支払われる金銭のことを指します。
賃貸借契約において、賃料は目的物の使用収益の対価として要求されますが(民法601条)、更新料の支払いは、民法その他の法律によって法定されているものではありません。
関東圏や京都などの都市では、賃貸借契約の際に、更新料の支払を特約として賃貸借契約に盛り込むということが商慣習化されているようですが、かかる商慣習が全国的に定着しているとはいえません。したがって、賃借人の更新料の支払い義務は、賃貸人と賃借人の間で特約(主契約たる賃貸借契約に付随して締結する契約)として合意することで発生します。
賃借人と賃貸人との間で更新料特約の効力が問題となるのは、更新料の法的性格、および消費者契約法10条の存在が大きく関係します。

2.更新料の法的性格

既述したように、更新料については法律上明文の規定が存在しません。更新料の法的性質として一般的には以下のような見解があります。
そのため、賃借人と賃貸人の間で更新料特約の効力が問題になった場合に、更新料の法的根拠が問題になり、訴訟では、この法的性質・根拠に対する判断が、更新料の支払特約の効力の判断にも影響を与えます。

  • 賃貸人の更新拒絶権放棄の対価(紛争解決金)
    賃貸人は、正当事由があると認められる場合であれば、賃借人に対し賃貸借契約の更新をしない旨の通知ができます(借地借家法28条)。正当事由がないことが明らかではないときにも、更新料の授受を合意することで、賃貸人がこの更新拒絶権を放棄したとみる見解です。
  • 賃借権強化の対価
    更新料を支払って合意更新することによって、更新後も期間の定めのある賃貸借契約となる場合、賃借人は契約期間満了まで明け渡しを求められないので、この点を賃借権の強化とみて、更新料をその対価と考える見解です。
  • 賃料の補充・前払い
    更新料は、賃料と同じ性質を有し、支払う時期と方法が異なるだけであるとし、更新料は賃料の補充もしくは前払いとして授受されているとする見解です。
  • 更新料の経済的合理性を認めない見解
    正当事由がない限り賃貸借契約が自動更新される以上、賃貸人に更新料を要求する根拠はないとの見解です。

上記のような見解に加えて、更新料の法的性質を明確に決定することは極めて困難であることから、更新料の不明瞭さ不合理性を指摘する見解もあります。

3.消費者契約法

消費者契約法は、消費者と事業者の間の情報の質および量ならびに交渉力の格差に鑑み、契約条項の効力を否定できる要件を拡大・明確化することで、消費者の個別的・事後的被害救済を図ることを目的として、平成12年4月に成立し、平成13年4月1日から施行されました。この法律は、消費者契約を包括的に適用対象としています。
賃借人は個人である場合、消費者契約法上の「消費者」に該当し(事業として、又は事業のために契約の当事者となっている場合は除きます。)、賃貸人は、法人その他の団体である場合のほか、個人であったとしても、事業として、又は事業のために賃貸借契約の当事者となっている場合、同法上の「事業者」に該当し、両者間の賃貸借契約および更新料特約は、「消費者契約」となり、同法の適用を受けます(消費者契約法2条1項、2項、3項)。
更新料特約との関係で特に問題となるのが、同法10条です。

4.消費者契約法 10条

消費者契約法10条は、「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」と規定しています。

同条中の「消費者の権利を制限し」、「消費者の義務を加重する」との文言は、消費者と事業者との間の特約がなければ、本来消費者が制限されない権利や、課されない義務を、不当な特約によって制限・加重されることを指します。
同条が適用されるための要件は、消費者契約上の問題となる条項が、(1)民法等の任意規定(当事者がその規定と異なった特約をすることが認められている規定のこと)が適用された場合と比べて、消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重していること、(2)信義則(民法1条2項)に反して消費者の権利を一方的に害していること、の2点です。

5.更新料支払特約を巡る最高裁判決(平成23年7月15日 )

更新料特約についての裁判所の下級審判決は、有効・無効どちらの結論も存在し、判断が割れていましたが、平成23年7月15日、更新料特約の有効性について争われた3件の訴訟について、最高裁第二小法廷で判決がなされ、最高裁は、3件ともに更新料特約(更新料条項)は有効であると結論づけました(更新料無効訴訟一覧参照)。

最高裁は、賃貸借契約における更新料条項が、消費者契約法10条の適用対象であるとした上で、更新料の法的性質について、諸般の事情を総合考量し、具体的事実関係に即して判断されるべきであるが、一般には「賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有する」としました。
そして、更新料条項が消費者契約法10条により無効となるかについては、「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、」消費者契約法10条にいう消費者の利益を一方的に害するものには当たらないとし、更新料条項は原則有効であるとの判断を下しました。

最高裁判決のポイントは、更新料条項が消費者契約法10条により無効となるかについて(1)賃貸借契約書に更新料条項について一義的かつ具体的な記載がされている、(2)更新料の額が賃料の額、更新期間等に照らし、高額に過ぎる特段の事情が存在しない、ことを理由に当該更新料条項が有効であるとの判断枠組みを示したところにあるといえます。

最高裁判決の判断枠組みからすると、更新料特約が消費者契約法により無効と判断されるには、上記ポイント2点のいずれかが満たされていないことが必要となります。
特に、ポイント(2)の「高額に過ぎる等の特段の事情がある」といえるかについて、最高裁は今回判決がなされた3件につき、いずれも特段の事情はないと判断しています(当該3事案の賃料、更新料価額、更新期間は、更新料訴訟一覧を参照)。今後の訴訟において、特段の事情が認められるためには、当該3事案を上回る事情が要求されると考えられます。