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基礎知識基礎知識

有価証券報告書虚偽記載に係る株主訴訟裁判例の検討(オリンパス事件を念頭に)

2011.11.30

1.はじめに

前稿「有価証券報告書虚偽記載に基づく株主の損害賠償請求」ではオリンパス事件を念頭に有価証券報告書の虚偽記載により損害を被った株主自身を直接の被害者とする損害賠償請求の法的根拠について説明しました。
本稿では、同様に有価証券報告書虚偽記載が問題となった事案において、前稿で挙げた各法的根拠に基づく損害賠償請求が争われた裁判例として、西武鉄道事件(下記2)とライブドア事件(下記3)を紹介します。なお、各事件については、異なる株主グループによる複数の訴訟が提起されており、下記で引用した判決以外の下級審判決が複数存在しますので、ご留意下さい。
下記2は、株主らが前稿で述べた民法の不法行為(民法709条等)に基づく損害賠償請求をした事案であり、下記3は、金融商品取引法(以下「金商法」といいます。)の規定に基づく損害賠償請求をした事案ですが、両事件の主たる争点は、有価証券報告書の虚偽記載による損害額の認定ですので、この点を中心に説明します。

2.西武鉄道事件最高裁判決(平成23年9月13日最高裁第三小法廷判決)

(1)事案の概要

本件は、証券取引法等の一部を改正する法律(平成16年法律第97号)により、虚偽記載等のある有価証券報告書を提出した会社の株主に対する損害賠償義務及び損害額の推定規定(現在の金商法第21条の2)が施行される前の事件です。
西武鉄道株式会社(以下「西武」という。)が有価証券報告書等の中で、株式会社コクド(以下「コクド」という。)が所有する株式の数を過少に見せる虚偽の記載を行い、後にこれが公表され、西武株式は上場廃止となり、同株式の価格が急落しました。
このような事案において、当該虚偽記載の公表前に西武株式を取得した株主が、西武と、当該虚偽記載に積極的に関与したコクドを後に吸収合併した株式会社プリンスホテルに対し不法行為(民法第709条、第719条第1項前段)に基づき、西武の役員らに対し、不法行為または旧証券取引法の規定に基づき、損害賠償を求めました。

本件の最高裁判決以前においては、有価証券報告書の虚偽記載等による損害額の認定については、主に以下のような見解がありました。

  • (あ)取得価額そのものを損害額とする見解
  • (い)取得価額から処分価額(株式の保有を継続している場合、口頭弁論終結時の市場価額)を控除した金額を損害額とする見解
  • (う)虚偽記載等公表時の市場価額から処分価額(株式の保有を継続している場合、口頭弁論終結時の市場価額)を控除した金額を損害額とする見解
  • (え)取得価額から、虚偽記載等がない場合の取得時の価額を控除した金額を損害額とする見解
  • (お)民事訴訟法第248条により裁判所の裁量により認定した金額を損害額とする見解

上記のように見解が錯綜する中、原判決(平成21年2月26日東京高裁判決)は、虚偽記載のある有価証券報告書を提出した会社及び役員等に不法行為責任が生じ得る旨の判断をした上で、本件の損害については、不法行為及び旧証券取引法上の規定に基づく損害賠償のいずれにおいても、「賠償の対象となるべき損害とは、違法行為がなかったとしたならばあるべき利益状態と違法行為がされた利益状態の差である」としました。そして、株式を保有し続けた株主については、本件口頭弁論終結時の株価が虚偽記載公表直前の株価より下落していなかったことから損害が認められないとして請求を棄却しました。また、株式を処分した株主については、虚偽記載の公表直前の株価と各株主の処分価格との差額を損害と評価することはできないとする一方、民事訴訟法第248条(損害の発生は認められるが、損害の性質上その額を立証することが極めて困難な場合、裁判所が相当な損害額を認定できるとするもの)を適用し、1株につき虚偽記載公表直前の株価の約15パーセント相当額を損害として認め、この限度で請求を認容しました。

(2)最高裁判所の判断

かかる原判決に対し、最高裁判所は、虚偽記載のある有価証券報告書を提出した会社及び役員等に不法行為責任が生じ得る旨の原判決の判断は維持した上で、損害額の算定の判断については原判決を破棄し、「有価証券報告書等に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が、当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合、当該虚偽記載により上記投資者に生じた損害の額、すなわち当該虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は、上記投資者が、当該虚偽記載の公表後、上記株式を取引所市場において処分したときはその取得価額と処分価額との差額を、また、上記株式を保有し続けているときはその取得価額と事実審の口頭弁論終結時の上記株式の市場価額(上場が廃止された場合にはその非上場株式としての評価額。以下同じ。)との差額をそれぞれ基礎とし、経済情勢、市場動向、当該会社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して、これを算定すべきものと解される。」とした上で、このように虚偽記載と無関係な要因による下落分を控除した損害額の立証は極めて困難であることが予想され、そのような場合には民事訴訟法第248条により相当な損害額を認定すべきであるとした上で、高等裁判所に事件を差し戻しました。

西武鉄道事件最高裁判決が示した損害額認定の算式

損害額 取得価額
- 処分価額または事実審口頭弁論終結時評価額
- 虚偽記載に起因しない下落額

3.ライブドア事件高裁判決(平成21年12月16日東京高裁判決)

(1)事案の概要

株式会社ライブドアホールディングス(以下「ライブドア」という。)が、有価証券報告書の中で、経常利益を過大に見せる等の虚偽の記載を行い、後にこれが公表され、同社株式の価格が急落しました。
このような事案において、当該虚偽記載の公表前に同社株式を取得した株主が、同社に対し、金商法第21条の2第1項に基づき、損害賠償を求めました。また、損害額については、同条第2項(虚偽記載の公表の前後のそれぞれ1ヶ月間の市場価額の平均額の差額を損害額と推定する)の推定規定の援用も主張されました。
原判決(平成20年6月13日東京地裁判決)は、ライブドアの同条第1項に基づく賠償責任を肯定し、損害額については、検察官が、司法記者クラブに加盟する報道機関の記者らに対し、有価証券報告書に虚偽記載の容疑がある旨を伝達したことをもって、「公表」したものと評価できるとして、同条第2項の規定を適用して損害額を推定した上、同条第5項を適用して、上記推定損害額から3割減額した損害額を認定し、この限度で請求を認容しました。

(2)東京高等裁判所の判断

ライブドアの金商法第21条の2第1項に基づく賠償責任及び同条第2項の「公表」については原審の判断を維持しましたが、損害額については、虚偽記載の公表後の株価下落原因としてライブドアが主張する事情(東京地検特捜部の家宅捜索がなされたという報道、上場廃止の可能性を示唆する報道、証券会社による株式のゼロ評価の表明、東証会長兼社長による上場廃止可能性の示唆、経営陣の逮捕、株式の監理ポストへの割当て決定、代表取締役の解任等)は、大規模な粉飾決算を企図した本件有価証券報告書の虚偽記載の発覚によって通常起こりうる事態と認められるから、同条第4項の「虚偽記載によって生ずべき値下がり以外の事情」ということはできないとしました。その上で、本件虚偽記載そのものではない、既に買収済みであった会社を株式交換により完全子会社化したとライブドアが虚偽の事実を公表したとの報道による値下がりについて、同条第5項により、同条第2項による推定損害額から1割減額した損害額を認定し、この限度で請求を認容しました。

4.まとめ

上記2の西武鉄道事件において最高裁が示した

損害額 取得価額
- 処分価額または事実審口頭弁論終結時評価額
- 虚偽記載に起因しない下落額

という損害額認定の算式は、不法行為のみならず、金商法の規定に基づく損害賠償請求にも妥当し得るものです。したがって、金商法第21条の2第2項の推定規定による損害額が上記算式による損害額を下回る場合には、金商法の規定に基づく請求においても、上記算式による損害額を主張することが可能です(例えば、不適切な会計処理に関してマスメディアで騒がれ始めたにもかかわらず、会社が複数回に渡って当該会計処理が適切である旨を公表し、その結果、株価が長期間にわたり緩やかに下落を続け、その後に虚偽記載を公表した場合に、上記推定規定を適用すると損害額が『不当に』小さくなってしまうことになります。なお、オリンパス事件における公表日を平成23年11月8日と考えた場合、同年10月8日から同年11月7日までの終値の平均は約1472円、同年11月8日から同年12月7日までの終値の平均は約848円になっています。)。
また、上記推定規定が及ばない場合には損害及び因果関係の立証が必要になりますが、上記算式により損害額が算定されるのであれば、これらの立証も容易になったといえます。そして、上記2及び3いずれの裁判例でも、虚偽記載に起因しない下落額として考慮できる事情を限定的に解しているものと思われます。そうすると、上記推定規定を援用するか否かにかかわらず、株主にとっては損害額の立証は大きな障碍にならないと考えます。

なお、オリンパス社の株価は、平成23年6月1日から同年10月13日までの間は約2000円から約2800円で推移し、同年11月8日から同年12月7日までの間は460円から1190円で推移しています。オリンパス社の株式の時価総額は、1株2400円であれば約6511億円、1株1200円であれば約3255億円、1株600円であれば約1628億円となります(発行済株式総数約2億7128万株)。したがって、理論的には、オリンパス事件に関して、総額数千億円規模の株主訴訟が提起される可能性があります。

*オリンパス社の過去の株価の推移は下記のURLで確認できます。
Yahoo!ファイナンス – オリンパス(株)株価情報