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TPPと著作権~非親告罪化の影響について~

2016.02.22

はじめに

日本やアメリカなど12か国が参加した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の署名式が,同協定文書のとりまとめ役を務めたニュージーランドのオークランドで行われました。同署名を受け,今後は,いよいよ国内法の様々な分野において,同協定に則した法改正がなされることになります。

TPPというと,関税の撤廃や削減など,貿易に関する事項についての交渉のみを行っているのでは、と思われるかもしれません。しかし,TPPは,貿易に関する事項に止まらず,投資や知的財産といった,高度で包括的なルールを確立する内容をも含んでいます。

そのうち,TPPの主な交渉分野の一つである知的財産分野,とりわけ著作権法に関するものについては,大きく以下の3つがその内容となります。

 

①著作権保護期間の延長

②著作権侵害の非親告罪化

③著作権侵害の法定損害賠償制度等の採用

 

上記3つの内容は,いずれも我が国における著作権保護のあり方を大きく変えることになるものですが,今回は,これらのうち,「②著作権侵害の非親告罪化」に焦点を当てて解説したいと思います。

親告罪とは

著作権法は,民事法規である一方,著作権侵害行為が行われた場合には,同行為につき罰則を伴う刑罰法規でもあります。すなわち,著作権法に違反すると,著作権法違反の罪を犯した犯罪者として刑事罰を受ける可能性があるということです。

例えば,現行著作権法は,著作権侵害罪(複製権や公衆送信権といった,いわゆる「典型的」な著作権を侵害した場合に成立する罪)に対する刑事罰として,

1 懲役刑…10年以下の懲役

2 罰金刑…1000万円(法人の場合は3億円)以下

のいずれか,又はこの両方を併科すると定めています(著作権法119条1項)。

この著作権侵害罪は,現在の著作権法では,「告訴がなければ公訴を提起することができない」犯罪,すなわち「親告罪」とされています。ここで,「告訴」とは,捜査機関に対して犯罪を申告し処罰を求める意思表示をいい,これができるのは「犯罪により害を被った者」,著作権侵害罪の場合には基本的に「著作権者」ということになります。

すなわち,現行著作権法においては,たとえ著作権侵害行為をしても,刑事の分野については,著作権者が告訴しない限り裁判にけられることはない,ということになります。

このように,著作権侵害の大部分が親告罪とされている理由は,一般的に,著作権は個人の名誉や生き方など,人格形成に関する権利(人格権)としての側面が強いので,著作権者が希望しない場合にまで処罰すべきでないから等と説明されます。

そして,今回のTPPで合意されたのは,これを「非」親告罪化し,告訴がなくとも,著作権侵害行為をした者を裁判にかけられるようにするということです。

しかし,このことは民事に比して,一般的により重い責任である刑事上の責任が,著作権者が望んでいないにもかかわらず問われるということを意味し,上記した著作権の人格権的側面に照らして考えると,いったい著作権法は何を保護しようとしているのか,という疑問が湧いてきます。

非親告罪化に対する懸念

上記した「そもそも」論のみならず,著作権侵害行為を非親告罪化することには,現実問題として,以下の懸念が存在します。

①著作権侵害行為が非親告罪化することで,コミケやパロディ等の二次創作で,著作権者が黙認している,あるいは「阿吽の呼吸」で円滑に行われている分野において,著作権者の意思に反して刑事訴追が行われることにより,新たな創作活動やクリエーター誕生の機会を奪われる可能性がある。

②映画や小説等は,多かれ少なかれ過去の作品から影響を受けているので,何かしら過去の作品と似た部分があると,映画配給会社や出版社が「もしかしたら著作権侵害行為とされて,刑事訴追をくらうかもしれない」と考え,業界全体が萎縮し,ひいては表現者の自由な創作・表現活動が萎縮してしまう虞がある。

③そもそも著作権侵害行為には,幅広い態様があるところ(例えば,会社内部のプレゼン資料に,著作物である写真を無断で使ったような場合),そのような場合にまで捜査機関の判断だけで刑事訴追ができてしまうというのは些かやり過ぎではないか。

そこで,たとえ著作権侵害行為を非親告罪化するにしても,上記の重大な各種懸念に照らし,一定の留保を付する必要があるのではないかとの議論がなされてきました。

「留保付き」の非親告罪へ

前述したとおり,TPP協定の基本合意では,著作権侵害行為は非親告罪になるとされましたが,同基本合意には,非親告罪化の対象を「故意による商業的規模の違法な複製等」に限定する旨の留保が付されています。

同留保のうち,「故意による」という点については,もともと日本の著作権法で処罰されるのは故意の場合だけなので,特段意味はありません。

また,商業的規模の違法な複製等であっても,「市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合」には非親告罪化の対象としないとされています。

例えば,上記③の場合などは,「商業的規模」ではないと思われますので,従来通り,著作者の告訴がなければ訴追されないということになりそうです。

あるいは,趣味の範囲で漫画やアニメなどの既存のキャラクターを用いて同人誌を作り,限られた部数のみを実費程度で販売するような場合には,「原著作物(オリジナル作品)等の収益性に大きな影響を与えない」といえそうですので,非親告罪化の対象から外される可能性が大きいと考えられます。

非親告罪化への更なる議論のポイント

ただし,一般的な感覚からして,上記留保の文言が,曖昧で分かりにくいものとなっていることは否定できません。

最近の議論では,非親告罪化の対象となる行為を,いわゆる「海賊版」の販売といった悪質なケースに限定すべきではないかとの意見も出てきており,法令にその旨明記することも考えられます。

また,例えば,著作権侵害罪を営利目的の場合と非営利目的の場合で区別し,刑罰の重さに差を設けたり,あるいは,著作権侵害行為を常習的に行った場合を重く処罰する規定を設けた上で,刑罰が重い事案だけを非親告罪化する等の指摘もあります。

今回の改正を機に,二次創作に対する無用の萎縮的効果を避けるためにも,上記指摘のように,著作権侵害罪の罰則を態様に応じて細分化し,そこに親告罪・非親告罪の区別を盛り込むことは,極めて効果的であるように思われます。

いずれにせよ,著作権法の目的(著作権法1条)に照らし,著作物の保護と利用のバランスを勘案して,文化の発展に寄与する制度となるよう,私たちは,今後国会に提出される予定の著作権法改正案を注視する必要がありそうです。

 

                                                     弁護士 伊庭 裕太