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民法改正に伴う売買契約書の見直し要注意ポイント~瑕疵担保責任の廃止をはじめとする売買関係規定の改正~

2015.12.12

はじめに

現在、ビジネスで用いられている契約書は現行民商法が定めるデフォルトルールをもとにそれを適宜修正して作成されたものです。しかし、改正要綱案には、現行民法とはだいぶ異なるデフォルトルールを前提とした規定が存在しています。したがって、使用している契約書の条項に関連する現行民法が改正でどのように変わる見込みかを確認し、契約書の当該規定が改正法案で採用されたルールのもとでも問題ないか見直す必要があります。

そこで今回は、民法改正を踏まえた売買契約書の主な見直しポイントをご紹介したいと思います。

売買契約は、財産権を移転し、それと引き換えに代金を支払うことを合意することで成立する契約であり(民法555条)、実務において依然として主流を占める取引類型といえます。売買契約といっても、継続性(1回限りのスポット契約か、継続的な契約か)、目的物が何か(動産、不動産、債権、有価証券、知的財産権、事業そのもの等のどれか)、国内契約か国際取引か等の観点から様々なバリエーションの契約書があり、契約書によって定める条項は異なります。また、契約書の中には、売買のみの場合だけではなく、請負や賃貸借その他の契約の要素も組み合わせた複合的な契約書になっている場合もあります。

ひとまず、改正要綱案に基づき見直し作業を行うにあたっては、複雑なものではなく、比較的シンプルな契約書で、かつ、実務上多く利用されている売買契約書に規定されている契約条項から検討を始めるのが良いでしょう。

契約書の写真

見直しポイント1:売主の特定物の引渡しまでの保存義務の内容

売主の保存義務について、現行民法では「債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者(売主)は、その引渡をするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない」と規定されています(民法400条)。これに関し、改正要綱案では、「善良な管理者の注意」の程度は、「契約その他の債権の発生原因および取引上の社会通念に照らして」定まるとの文言が提案されています(下記改正要綱案 第8の1参照)。なお、〝特定物゛が何かについては、先のブログ記事(2015年10月14日付原始的不能に関する規律の新設)をご参照ください。

改正要綱案 第8 債権の目的

1 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

改正要綱案では、「契約」の内容が明確であるときは「契約」自体から善管注意義務の内容が導かれ、「契約」の内容が明確でないときは、「取引上の社会通念」を考慮して善管注意義務の内容が導かれます。そして、「取引上の社会通念」は、契約当事者の主観的な意思だけではなく、その契約の性質、契約をした目的、契約締結にいたる経緯その他の取引をとりまく客観的な事情をも考慮して、善管注意義務として求められる行為内容が決定されるという関係となるとされています。

これは、最近の裁判例・実務の考え方を採用したものとされ、善管注意義務の内容は、当面、今までと同じような内容のものとして決まることになると予測されます。しかし、文言の変更は解釈の変更をもたらす可能性がないとはいえません。また、改正要綱案の善管注意義務も、契約の局面では契約(合意)の内容も重視して決まることが文言から明確になっているため、今後、善管注意義務の内容に変化をもたらす可能性がないとはいえません。改正要綱案は、契約(合意)を重視しており、規定に表れていないとしても、契約(合意)が基本理念としても解釈指針としても重要な役割を果たすと考えられます。

【ポイント】

契約の目的物が特定物である場合、契約書の各条項が明確で、文言から保存義務にかかる注意義務の程度が一義的に読み取れる表現になっているかをチェックしましょう。のちに引渡しまでの目的物の保存義務の履行状況が問題になった場合、契約書の解釈・適用をめぐって、「取引上の社会通念」が持ち出されることをなるべく回避することができます。

その一手段として、売買(基本)契約書に『契約の目的』条項を設けることが有効と考えられます。従来の売買(基本)契約書における『契約の目的』の具体的な文言としては、「売主は、本契約に基づき、買主に対し、継続的に●●商品(以下「本件商品」)を供給し、買主は、本件商品を継続的に購入するものとする。」等の文言によって漠然と規定されることが多いと思われますが、このような漠然とした記載ではなく、当該売買契約の締結から終結までに発生しうるリスクを合理的に分配するための指針についての当事者間の合意が読み取れるような記載にする工夫を検討することがよいでしょう。

具体的には、各当事者の役割や、対象目的物を売買する目的(自家消費なのか、部品であり他の製材品と組み合わせるのか、そのまま他社に転売するのか等)を『契約の目的』その他の当該契約書の条項にあらかじめ明記しておくことが保存義務の程度を明らかにする上で資すると考えられます。

見直しポイント2:目的物・権利の契約適合性に関する契約規定

改正要綱案において、いわゆる特定物売買における売主の瑕疵担保責任を廃止し、特定物売買・不特定物売買の区別なく債務不履行責任に一元化することが提案され、契約の履行・契約不適合責任に関わる規律が大きく変わる見込みです。

ビジネスで現在使われている契約書中、目的物の瑕疵・数量不足に関する売主の瑕疵担保規定は、商法526条が定める買主による目的物の検査及び通知に関するルールを前提としたうえで、民法570条及び商法526条を修正して作成されているため、契約の履行・契約不適合責任に関わる規定は、売買契約所定の規定のうち、改正要綱案による規定の変更で検討しなければならない最重要規定であるといえます。

以下、契約の履行・契約不適合責任に関わる規定を見直すに際して、押さえるべき民法改正点を整理します。

〔1〕「隠れた瑕疵」の担保責任や、「権利の瑕疵」・「物の瑕疵」といった表現をなくし、すべて「契約不適合」という表現に

現行法では、特定物売買の場合、一般の債務不履行責任とは異なる要件のもとでの担保責任に基づく損害賠償請求権や解除権が規定され、債務不履行責任と瑕疵担保責任の二つの責任体系が併存していました。しかし、改正要綱案では、引き渡された目的物が契約に適合しない場合の損害賠償の請求及び契約の解除について、特定物売買・不特定物売買の区別なく、債務不履行に関する一般規定の適用があるものとしました(要綱案 第30の5)。

(1)法定責任説の否定

これまでは、瑕疵担保責任の意義は、特定物売買の目的物の品質に瑕疵があっても現状のまま引き渡せばよく債務不履行責任が生じないことを特別に手当てするものであるという説明がされてきました(いわゆる法定責任説)。これに対し、改正案では、特定物売買であっても、目的物の品質が当事者間の合意(契約)の対象となり、合意に達しない不適合の場合は債務不履行責任を問いうることが、正面から認められています。また、瑕疵担保責任は、債務不履行責任では問えない無過失売主の責任を対価的均衡の維持に限って図るためのものととらえる考え方(対価制限説)については、代金減額請求権が不適合一般に拡張されることにより対応されました(後述〔3〕)。さらに、瑕疵担保責任は、買主が履行を認容し受領して債務不履行責任を追及できなくなった後に「隠れた」瑕疵が発見された場合に引渡時から1年という短期期間制限のもとでの責任追及を認める意義があるという説明がありましたが(時的区分説)、改正要綱案では、瑕疵が隠れていることは要件とされていません。

(2)「瑕疵」という表現から「契約の内容に適合しない」という表現へ

改正案では、現行法にみられた「質的瑕疵」と「量的瑕疵」の区別や、「物の瑕疵」と「権利の瑕疵」の区別は、基本的にはなされていません(後者につき、要綱案 第30の6)。すべて「契約の内容に適合しないものであるとき」という表現を使うこととしています。

つまり、改正案法案では、売主には、売買契約の内容に適合した権利を移転すべき義務物の種類・品質・数量に関して契約の内容に適合した物を引渡すべき義務があるとして、具体的な契約のもとで契約当事者が合意した契約内容への適合性からかい離していると、売主には売買契約の契約不適合責任があるとされます。

〔2〕買主の救済方法について、債務不履行責任に一元化するとともに、追完請求権を新設

契約不適合の場合の買主の救済方法としては、契約不適合の状態に応じて、①追完請求権②代金減額請求権を規定し、さらに③解除④債務不履行による損害賠償が認められる旨を規定しています。売買契約の特質を考慮して債務不履行責任の一般的規律に対する特則を定めています。

追完請求権としては、具体的には、買主は修補代替品引渡しを請求することができるとされています。これは「履行請求権」の一種として整理されますが、売主が契約で引き受けた目的物の「引渡し」とは異なる給付を求めるものですから、明文の規定でこれを規定することは評価できます。さらに、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法とは異なる方法で履行の追完をすることができるとされています(要綱案 第30の3(1)但書)。

〔3〕代金減額請求権の拡張

対価的均衡の確保を目的とする代金減額請求権は、現行法では、量的な不適合(数量不足)の場合にしか認められませんでした(民法563条1項・565条)。しかし、改正要綱案は、これを種類・品質の不適合の場合にも拡張しています(要綱案 第30の4)。現行法が質的な不適合について代金減額請求権を認めていないのは、量的な不適合と比べて減額すべき代金額の算定が困難であったからだとされます。もっとも、実務上は代金減額的損害賠償は広く認められてきたところでした。そこで今回、これを明文化したものです。

その算定方法については、要綱案では買主は「不適合の程度に応じて」代金の減額を請求できるとするだけで、具体的な算定方法が示されていません。量的な不適合に関する代金減額は単純に割合的計算によることができますが、種類・品質の不適合によって代金減額をする場合には、いくつかの算定方法がありえます。第一は、適合物品であれば有する価値(100%)と引き渡された不適合物品の「価値の割合」(例.80%)に応じて代金を減額(例.-20%)する相対的評価方法によるもの、第二は、適合物品であれば有する価格(客観的な市場価格)と引き渡された不適合物品の「価値の差額」を契約代金から減額する絶対的評価方法が考えられます。契約価格は交渉次第で市場価格とは一致しないこともあるため、客観的な市場価格の差額を単純に契約価値から減額する絶対的評価方法では、対価均衡の維持としては不適切であり、相対的評価方法のほうが適切との指摘があります。さらに、適合物品と引き渡された不適合物品の価値の評価基準時を、契約締結時とするのか引渡時とするのかという問題もあります。いずれにせよ、契約書において、算定方法について定めておくことが望ましいでしょう。

〔4〕権利行使期間から通知期間へのルール変更

瑕疵を知ってから1年という期間制限制度について、現行法では権利行使期間の制限(民法566条3項等)とされていましたが、改正要綱案は、瑕疵(契約不適合)を認識したにもかかわらずその後1年以内に買主が売主に通知しなかった場合に、失権するという形で1年間の通知期間制限としてルールを再構築しています(要綱案 第30の7)。改正要綱案の規定によると、買主は、種類または品質に関して契約の内容に適合していない事実を認識したら1年以内に契約不適合であることを売主に通知する義務を課し、通知を怠ったときは買主として救済を受ける権利を失権するという規律に服することになります(ただし失権効は悪意・重過失のある売主には生じません(第30の7(1)但書)。また、数量不足、権利の瑕疵については適用されません。)。1年の期間の始期が不適合の認識時とされているため、担保責任を追及しうる程度に確実な事実関係を認識した時点を始期とする現行民法の判例での基準に比べると失権しやすくなっていることに注意が必要です。

上述した事項に関する要綱案の規定は以下の通りです。

改正要綱案 第30 売買

 売主の追完義務

売主の追完義務について、次のような規律を設けるものとする。

  1. 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
  2. 前第1項の不適合が買主の責めに帰するべき事由によるものであるときは、買主は、前第1項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

4 買主の代金減額請求

 買主の代金減額請求権について、民法565条(同法第563条第1項の準用)の規律を次のように改めるものとする。(※民法565条=数量不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)

  1. 第30の3第1項本文に規定する場合において、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主は、その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
  2. 前第1項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、買主は、前第1項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
  • ア 履行の追完が不能であるとき。
  • イ 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
  • ウ 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行しなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行をしないでその時期を経過したとき。
  • エ アからウまでに掲げる場合のほか、買主が前第1項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。

 3. 前第1項の不適合が買主の責めに帰するべき事由によるものであるときは、買主は、前第1項及び第2項の規定による代金の減額の請求をすることができない。

5 損害賠償の請求及び契約の解除

損害賠償の請求及び契約の解除について、民法第565条(同法第563条第2項及び第3項の準用)及び第570条本文(同法第566条第1項の準用)の規律を次のように改めるものとする。

第30条の3及び4の規定は、第11の1及び2の規定による損害賠償の請求並びに第12の1から3までの規定による解除権の行使(債務不履行責任に基づくもの)を妨げない。

7 買主の権利の期間制限

  1. 民法第570条本文(同法第566条の準用)の規律のうち期間制限に関するものを、次のように改めるものとする。

売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りではない。

 2. 民法第564条(同法第566条において準用する場合を含む。)及び第566条第3項を削除するものとする。

弁護士・ニューヨーク州弁護士 川勝明子