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原始的不能に関する規律の新設

2015.10.14

 今回は,改正民法で新設される見込みである,原始的不能であった場合の契約に関する規律について解説します。
 そもそも“原始的不能”という用語自体,専門外の方にとっては日常なじみのないものと思われますので,まずはこれについて説明します。

原始的不能とは

 例えば,著名な画家の名画の売買契約が成立したものの,実は契約前に,火災で絵画が焼失してしまっていたというケースのように,契約成立以前から契約の目的が実現不能であった場合,契約が原始的不能であるといいます。

 では,契約の目的が“実現不能”とは,どのような場合をいうのでしょうか。“冥王星まで連れて行く運送契約”のように,およそ実現できそうもないものはさておき,目的物が滅失したようなケースでは,本当に実現不能かどうかを検討する必要があります。

 この点,契約の目的物が“特定物”であれば,その滅失により契約は実現可能になったということができます。この“特定物”という用語も耳慣れないものですが,取引の当事者がその物の個性に着目して取引の対象とした場合,その物を特定物といいます。上記のケースでは,著名な画家の名画は正にその個性に着目した一点物ですから,これは特定物といえるでしょう。これに対し,その名画のレプリカを売買するというケースでは,同程度の精巧さをもっていれば他のレプリカでもよいでしょうから,これは特定物でないと考えられます。このような不特定物が契約の目的物である場合には,たとえ滅失してしまったとしても代替品の調達が可能ですから,実現可能性は失われないということになります。

現行法上の規律

 現行法上,契約の目的が実現可能であることは契約の有効要件の一つとなっていますので,原始的不能であった場合の契約は無効となります。ただし,給付すべき者に過失があれば,いわゆる契約締結上の過失として,損害賠償を請求できるというのが判例・通説とされています。

 これに対し,契約成立後に実現不能となった場合には,履行不能に帰責事由があれば債務不履行責任の追及をすることになり,帰責事由がなければ危険負担の問題となります。危険負担については,改正点も含め本ブログの他稿にて詳細に解説しておりますので,そちらをご覧下さい。

 さて,上記のケースでは,絵画が特定物であり,これが契約前に燃えてしまっていたため,原始的不能となり,現行法上,契約は無効となります。買主としては,売主に対し損害賠償請求ができるかどうかを検討することになります。

改正民法ではどうなるか

 上記のとおり,現行民法上は,原始的不能である契約は無効となりますが,改正民法では,契約は有効と扱われ,債務不履行に基づく損害賠償を請求できることになります。

 現行民法でも,売主に過失がある場合には,損害賠償請求が認められているため,大した違いはないのではないかとも思われます。しかしながら,過失責任と債務不履行責任とでは,賠償請求の対象となる損害の範囲が大きく異なります。

 この点,現行法上,過失責任として賠償請求の対象となるのは“信頼利益”に限られます。この“信頼利益”とは,無効な契約を有効であると信じたことによって被った損害のことをいいます。上記のケースでは,買主が絵を保管するために借りた温度管理付の倉庫の賃料や,絵の購入代金を金融機関から借り入れたことによる利息がこれに当たります。これに対し,債務不履行責任として損害賠償の対象には“履行利益”も含まれます。これは,契約が完全に履行されたならば債権者が受けるであろう利益をいい,上記のケースでは,絵の転売利益等がこれに当たります。少し考えただけでも,請求できる損害額に大きな違いが生じるのがお分かりいただけると思います。

 上記のように,契約が原始的不能の場合にも債務不履行による損害賠償を認めるよう改正案が出された理由は,①履行不能が契約の成立前に生じたか成立後に生じたかは偶然の事情に基づくものであり,場合によっては極めて小さい時間差しかない場合もあるのに,契約の効力の有無や損害賠償の範囲の点で効果が大きく異なるのは相当でないから,②契約を締結した当事者はそれに基づく債務の履行が可能であると考えて契約を締結するのであるから,たとえ原始的不能であった場合でも,履行利益の賠償を認めなければ債権者に不測の損害をもたらすから,とされています。

弁護士 宮澤 勇作