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ブログブログ

支配からの卒業 ~『解除』のパライムシフト~

2015.09.18

 今回のブログでは、民法(債権法)改正のうち、契約の『解除』について取り上げてみたいと思います。

 

契約は足枷でもある

 お店で買い物をする際、商品の代金をレジで精算しますが、この契約は売買契約にあたります。通常、お会計で売買契約は一瞬で成立し終了してしまいますが、これを法的に分析すると、買い物客からの商品購入の意思表示、お店側の承諾、商品の引渡し、代金の支払いという要素が含まれています。

 ここでは代表的な契約として売買契約を挙げましたが、我々が当事者になる売買契約でも、すべてが上記のように一瞬で契約関係が成立・終了してしまうものばかりではありません。

 例えば、新車を購入する場合には、金額が大きく、また車が契約の締結場所にないでしょうから、代金の支払期限や納車日が、契約締結日よりも後になることが多いかと思います。

 このように、契約締結後にも、双方の当事者が、それぞれ債務(代金支払債務、目的物引渡債務)を負うことになります(このように「双」方が債「務」を負う契約を「双務契約」といいます)。

 しかし、契約締結後に、相手方が約束を守らない場合(ex.期限どおりに代金を支払わない、目的物を引き渡さない)、相手方に履行するよう催促することも考えられますが、相手方が信用できないと判断して契約を解除したいと考えるのも、選択肢の1つです。同内容の取引(あるいはより有利な取引)を誠実に履行してくれる第三者がいる場合には、不履行状態にある契約を解除して、当該第三者と取引をした方がむしろ合理的です。

 もっとも、解除するためには、現在の民法(543条)では、相手方が約束を守らないこと(債務不履行)につき帰責事由がなければなりません。そのため、解除通知をしても、相手方が、「自分が約束を守れなかったのには、やむを得ない事情があった。」と主張して、これが実際に証明されれば、解除は無効であり、契約関係は継続してしまいます。

 このように解除に関しては、債務不履行を行った債務者の帰責事由の有無が問題となり、帰責事由がある場合に解除が認められるという建て付けになっていることから、解除制度は、不履行を行った債務者に対するペナルティという性格を有していることがわかります(もっとも、債務不履行があったこと自体、契約関係において異常事態ですから、通常、相手方に帰責事由が認められるケースが大半です)。

 この点、解除をしたいと考える一方の契約当事者から見れば、相手方に帰責事由があるかどうかはどうでもいいことで、履行がない以上、帰責事由の有無にかかわらず解除したいと考えるのが通常です。相手方が履行してくれない契約関係は、債権者から見れば足枷でしかありません。

 そこで、今回の民法(債権法)改正においては、解除制度そのものを、現在の「不履行を行った債務者に対するペナルティ」という発想から、「相手方(債務者)の履行を受けることのできない当事者(債権者)を契約の拘束力から解放し、自身の債務を消滅させる制度」という発想に転換することにし、その結果、解除に際して相手方当事者の帰責事由は不要となりました。後者のように考える見解は従前から有力に主張されていましたが、今回の改正によって、初めて明示的にこの考え方が採用されましたので、債務不履行を理由とする解除に関する一種のパラダイムシフトといえます。

 このように解除を「契約の拘束力からの解放のための制度」と再構築することで、従来、危険負担の問題とされていた問題を「解除」によってすべて対応しようとする見解(解除一元化論)が改正審議の過程で有力に主張され、この点が、危険負担の改正点に影響を与えたことについては、すでに過去のブログに書かせて頂きました(→「『拒否』か『解除』か ~『危険負担』の改正~」)。

 

「催告解除」と「無催告解除」の2つの類型

 解除の要件として債務者の帰責事由が不要となったことの他に、債務不履行を理由とする解除に関して、以下のような改正がなされることになっています。

 まず、解除に関しては、民法改正案では、(1)解除の前に債務者に相当期間を定めて履行の催促をし、それにもかかわらず債務者が履行しない場合に解除を認める「催告解除」と、(2)このような催告なしにいきなり解除通知をすることができる「無催告解除」、の2つの類型に分けて規定され、両者の関係は、(1)「催告解除」が原則的な解除であり、(2)「無催告解除」は、債務の全部の履行が不能である場合など一定の場合に限って認められるという位置づけになっています。

 そして、前記のとおり、解除に際して債務者の帰責事由は不要ですが、(1)「催告解除」については債務不履行が軽微なものである場合は解除ができず、(2)「無催告解除」については、「契約をした目的を達することができない」ことが無催告解除の要件となっています。

 

【改正要綱案】第12 契約の解除

1 催告解除の要件(民法第541条関係)

民法第541条の規律を次のように改めるものとする。

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

 

2 無催告解除の要件①(民法第542条・第543条関係)

民法第542条及び第543条の規律を次のように改めるものとする。

次に掲げる場合には、債権者は、1の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。

(1) 債務の全部の履行が不能であるとき。

(2) 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

(3) 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。

(4) 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。

(5) (1)から(4)までに掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が1の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

 

契約の一部解除

 「無催告解除」については、契約の一部のみの解除も可能となっています。

 

【改正要綱案】(第12)

3 無催告解除の要件②(民法第542条・第543条関係)

無催告解除の要件について、次のような規律を設けるものとする。

次に掲げる場合には、債権者は、1の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。

(1) 債務の一部の履行が不能であるとき。

(2) 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

 

債務者の債務不履行につき債権者に帰責事由がある場合の解除の制限

 前記のとおり、債務者が債務不履行をしている場合には、その不履行につき債務者に帰責事由がなくても、改正後は、理論的には、いつでも債権者は解除ができることになりそうです。

 しかし、債務者の債務不履行の原因を債権者が作った場合(債権者のせいで債務者が履行できない場合)、このような場合にまで、債権者を契約の拘束力から解放して保護する必要性はありません。そのため、改正案では、債務不履行につき債権者に帰責事由がある場合には、解除ができないことにしました。

 

【改正要綱案】(第12)

4 債権者に帰責事由がある場合の解除

債権者に帰責事由がある場合の解除について、次のような規律を設けるものとする。

債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、1から3までの規定による契約の解除をすることができない。

 

果実の返還の明文化

 「果実」というと、果物を思い浮かべるかもしれませんが、法律上の「果実」とは、果物などの「天然果実」だけでなく、利息などの「法定果実」も含まれます(民法88条)。そして、現行民法では、解除後に原状回復として金銭を返還する必要がある場合には、この金銭に、受領時からの利息を付けて返還しなければならないこととされています(民法545条2項)。

 今回の改正では、受領した給付物が金銭以外のものであった場合にも、給付物に果実を付加して返還することが明文化されることになりました。このような扱いは、従前の実務・解釈上も争いなく行われていたところですので、これを改正後の民法で明らかにしたものです。

 

【改正要綱案】(第12)

5 契約の解除の効果(民法第545条第2項関係)

民法第545条第2項の規律を次のように改めるものとする。

(1) 民法第545条第1項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。(民法第545条第2項と同文)

(2) 民法第545条第1項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。

 

解除権も消滅します

 仮に、債務者に債務不履行があり、これに基づき解除権が発生しても、債権者が必ずしも行使するとは限りません。しかし、いつまでも債権者が解除権の行使・不行使の態度を示さなければ、その間、債務者は非常に不安定な状態に置かれます。そこで、現行民法では、債務者から債権者に対して、相当期間を定めて解除するかどうかを確答するよう催告し、債権者から解除通知を受けることなく、同期間が経過した場合には、解除権は消滅することになっています(催告による消滅。民法547条)。今回の改正でも、この規定は維持されることになっています。

 また、解除権を取得した債権者(解除権者)が、すでに債務者から目的物を受領している場合、仮に、解除権者が解除権を行使すると、目的物を債務者に返還して原状回復しなければなりませんが、この目的物を解除権者自身が解除権行使前に著しく損傷する等して返還不能な状態にした場合も、解除権は消滅します(解除権者の行為による消滅)。現行民法にも、これを定めた規定(民法548条)が置かれていますが、今回の改正では同規定が一部変更され、解除権者が自身に解除権があることを知らずに目的物を返還不能な状態にした場合には、なお解除権は行使できるという扱いになりました。

 

【改正要綱案】(第12)

6 解除権者の故意等による解除権の消滅(民法第548条関係)

  民法第548条の規律を次のように改めるものとする。

  解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。ただし、解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは、この限りでない。

 

 

                                                                                                弁護士 千葉貴仁