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あなたも紛争の当事者に~身近な問題,賃貸物件の原状回復をめぐるトラブル~

2015.09.11

1 はじめに

 現在,多くの方が賃貸マンションやアパートで生活しています。借り受けた当初は「大家さんの物だから」と気を遣って生活していても,年月を経るといつしかこれが「自分の家」となり,壁紙の汚損やフローリングの傷みもそれほど気にならなくなってくることでしょう。

 しかし,いずれ賃貸借契約が終了すれば,そんな「自分の家」を大家さんに返さなければなりません。

 今回は,賃貸借契約の終了に際して比較的問題となることが多い「原状回復をめぐるトラブル」について,民法改正の動向も踏まえながらブログを書かせていただこうと思います。

 

2 そもそも「原状回復」とは

 契約期間の満了や解約等によって賃貸借契約が終了した場合,現行民法上,借主は,借りていた物件を貸主に返還する義務を負うとともに(民法616条による597条1項の準用),物件に附属させた物(エアコンなど)を収去する権利を有するとされています(民法616条による同法598条の準用)。

 これらを単純に読むと,借主は,借りていた物件をとりあえずそのままの状態で貸主に返せばよく,もし今後も自分が使いたいものがあればそれだけ収去すればよいというようにも思えますが,一般には,借主の物件を返還する義務の内容として,借主は,①物件に生ぜしめた損傷等について,これを元の状態(原状)に戻す義務(原状回復義務)と,②物件に附属させた物を収去する義務(収去義務)を負うと考えられています(個々の賃貸借契約においても,借主にこれらの義務を負担させるのが一般的です。)。

 したがって,物件の壁紙を破いてしまったり,床に物を落としてフローリングを傷つけてしまったりしたような場合には,借主は,上記①の原状回復義務に基づき,これを修復して貸主に物件を返還する義務を負うこととなります(ただし,実際には,大家さんが自分で業者を手配して修復し,その修復にかかった費用を敷金から差し引くというのが一般的です。)。

 では,どんなに気をつけて住んでいても避けられないような損傷(フローリングの小傷や畳の日焼けなど)についてはどうでしょうか。

 長期間住んでいれば当然に経年劣化が生じますし,借主に何の落ち度もない損傷についてまで全て賃借人に修復させるというのは,必ずしも公平とはいえません。というのも,経年劣化や通常の使用に伴う損耗(通常損耗)の発生は,賃貸借という契約の本質上当然に予定されているというべきで,通常その回復のための費用は賃料に含まれていると考えられるからです。

 それにもかかわらずその回復のための費用を借主に負担せよというのでは,貸主に二重に得をさせることになってしまいます。

 そこで,古くから,裁判例では,経年劣化や通常損耗について借主は原状回復義務を負わないという判断が示されてきました。

 国土交通省が公開している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」でも,原状回復とは,「賃借人の居住,使用により発生した建物価値の減少のうち,賃借人の故意・過失,善管注意義務違反,その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されています。

 

3 民法改正案の内容

 民法改正案は,「賃借人は,賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下同じ)がある場合において,賃貸借が終了したときは,その損傷を現状に回復する義務を負う」と規定し,借主の原状回復義務を現行規定よりも明確化するとともに,通常損耗や経年劣化について借主は原状回復義務を負わないことを明文化しています。

 これまでの判例や議論の状況等を踏まえたものであり,前向きに評価すべき改正案であると思います。

 

4 それでもなくならない原状回復をめぐるトラブル

 上記の内容で民法が改正されたとしても,原状回復をめぐるトラブルがなくなることはないでしょう。それはなぜでしょうか。

 理由は簡単です。

 これはある意味では仕方のないことなのですが,「経年劣化」「通常損耗」について借主は原状回復義務を負わないといっても,何が「経年劣化」「通常損耗」に該当するのか基準として必ずしも一義的ではないからです。

 また,一般に使われている賃貸借契約書では「経年劣化」「通常損耗」についても借主が原状回復義務を負う旨の特約が入れられていることも多く,このような特約の有効性についても考えてみる必要があります。

 更に,借主に責任があるものとして原状回復を負う場合でも,その範囲,例えば壁紙を少し破いてしまっただけでその物件全体の壁紙を張り替えてよいのかといった問題もあります。

 この辺が法律学が学問である所以なのですが,民法等の法律を暗記したところで,実際に生ずる紛争を解決することはできません。

 皆様も,賃貸物件の原状回復をめぐるトラブルに巻き込まれてしまった場合には,「民法の条文がこうなっているから」と高を括ることなく,すぐに弁護士等の専門家に相談されることをお勧めします。

弁護士 鈴木晴哉