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債権譲渡制度の改正ポイントと実務上の留意点~民法改正で債権取引促進?~

2015.08.08

1 はじめに

債権者は自分の債権を第三者に譲渡することができます。すなわち、債権は財産の一つであり、動産や不動産のように売買したり、債権を担保にお金を借りたりすることが可能です。

たとえば、機械を製造するA(【譲渡人】)が販売代理店S(【債務者】)に商品を売って100万円の売買代金債権を得たとします。AはSに対するこの100万円の債権をあたかも動産のように取引銀行Bに売却して対価をえることができます。この場合、Bは、100万円という債権を額面通りの金額で購入するのではなく、弁済期までの期間の長さ、Sの資力等を考慮して、たとえば800万円で購入します。Aが取引銀行Bに債権を譲渡すると、以後、【譲受人】BがSに対する債権者になります。

また、債権回収手段として債権譲渡が使われる場合もあります。たとえばAの経営状態が悪くなり、B銀行がAから貸したお金を返してもらえない場合、Bとしては正攻法で、債務名義をとって、AのSに対する債権を差し押さえる方法もありますが、Sに対する債権をAからBに譲渡させることで債権回収を図ることができます。

近時、企業の資金調達の手法としてこのような債権譲渡の重要性が高まっていること等を背景とし、今回の民法改正では債権譲渡に関するルールを透明化し、債権譲渡の安定性を高め、債権譲渡を促進する制度設計が議論されました。

そこで、本稿では、改正のポイントについて、またその実務上の留意点について解説します。

債権譲渡の図

 

2 改正のポイント

(1)債権譲渡の対抗要件

【ポイント】

  1. 基本的には現行民法467条の、「確定日付ある証書による通知または承諾」による対抗要件制度が維持された(改正要綱案 第19、3イ)
  2. 現行法の対抗要件制度をいわゆる将来債権譲渡にも適用すべき旨を明文化した(改正要綱案第19、3ア)

※将来債権譲渡=債権譲渡の意思表示の時に債権が現に発生していない権利の譲渡

【ポイントの解説】

AのSに対する100万円の債権を1つの財産とみれば、不動産や動産の場合と同じく、二重譲渡が生じることがありえます。

このような場合に、二重譲渡された者の間で優劣を決するための手段が【対抗要件】になります。不動産なら先に移転登記をした方が優先されます。

この点、現行民法467条2項では、債権譲渡の【対抗要件】は、確定日付ある証書による債務者への通知又は債務者の承諾となっています。

すなわち、債権を譲り受けようとする第三者は、まず債務者に対し債権の存否ないしはその帰属を問い合わせます。すると、債務者は、その債権が既に譲渡されていたとしても、譲渡の通知を受けないかまたはその承諾をしていない限り、第三者に対し債権の帰属の変動のないことを表示するのが通常であり、第三者はそのような債務者の表示を信頼してその債権を譲り受けることになります(債務者をインフォメーション・センターとする対抗要件制度の構造)。

債務者をインフォメーション・センターとする対抗要件制度の構造からすれば、債務者がいつ債権譲渡を知ったか、もしくはいつ承諾したかが重要であるはずであるため、本来は、通知の到達時または承諾時が確定日付ある証書で証明されなければならないという指摘があります。

この点、判例・実務は、確定日付ある通知書を送付すること、または承諾が行われたことを示す書面に確定日付を得ることで足りるとしています。そのため、確定日付の先後では、通知の到達時または承諾時がいつか不明であるため、競合する債権譲渡の優劣決定基準として役に立たないことになります。そこで、判例は、譲受人相互の間の優劣は、通知又は承諾に付された確定日付の先後によって定めるべきではなく、確定日付のある「通知が債務者に到達した日時」又は確定日付のある「債務者の承諾の日時」の先後によって決すべきであるとしています(最判昭和49年3月7日)。さらに、判例は、競合する債権譲渡についての確定日付のある通知が、同時に債務者に到達した場合のルール(最判昭和55年1月11日)、到達日時の先後が不明だった場合のルール(最判平成5年3月30日)などを補充しています。

このような判例のルールは、要綱案に追加されず、ルールの明確化という点では疑問が残る結果となりました。

他方で、いわゆる将来債権譲渡にも現行法の対抗要件制度を適用すべき旨が明文化される見込みです。これは、判例で確立されたルールで、特定の債務者との間で生ずる将来の債権の集合は、相当将来のものまで、1つの対抗要件で一括して譲渡できるということを再確認したものです。

(2)債権譲渡禁止特約の効力

【ポイント】

  1. 債権者・債務者間で譲渡禁止・制限(以下「譲渡制限の意思表示」)が付されていても、債権譲渡は有効であるとした(改正要綱案 第19、1(1)ア)。ただし、譲渡制限の意思表示の存在について悪意・重過失の第三者(譲受人)に対しては、債務者は履行を拒めるし、譲渡人に対する弁済等をその第三者にも対抗できる(改正要綱案 第19、1(1)イ)
  2. しかし、譲渡制限の意思表示を悪意・重過失の第三者(譲受人)に対抗することができない場合がある。すなわち、上記ア、ただし書きの場合、債務者が債務を履行しない場合において、悪意・重過失の第三者(譲受人)が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者は、第三者(譲受人)に対して履行を拒めない(改正要綱案 第19、1(2))
  3. 債務者は譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたときは、その債権の全額に相当する金銭を供託することができる(改正要綱案 第19、1(3))
  4. 預貯金債権については、別取扱いで、譲渡制限の意思表示が付されていれば、悪意・重過失の譲受人に対して、譲渡制限が有効であることを主張できる(改正要綱案 第19、1(5)ア)

【ポイントの解説】

A・S間の契約に、「本契約上生じた債権は、他方当事者の承諾がなければ、譲渡してはならない。」といった文言が入っていたとします。すなわち、債権者A・債務者S間の債権には、譲渡制限特約が付されていることになります。

債権譲渡が自由されてしまうと、債務者Sは、困る場合があります。例えば、今まではA・S間の長い取引関係に基づく信頼関係で、苦しいときは支払時期も少し先延ばしにしてもらえたのに、知らない間に売掛金債権が第三者に譲渡され、債務者Sは、見ず知らずの債権者(譲受人B)から、急に厳しく取り立てられるという事態がありえます。また、Aの経営状態が悪くなり、数少ない財産であるSへの売掛金債権が、二足三文で複数の債権者に多重譲渡され、Sは様々な債権者から強硬に取り立てられるという面倒な事態に巻き込まれることもありえます。また、債務者Sからすると、債権譲渡されたことを知らずに、過誤払いになってしまう危険や、そうならないまでも、支払先が代わることによる事務処理上の手間もあります。

そこで、債権者A・債務者S間で、債権譲渡をする場合には、事前に債務者Sの承諾を得るという文言を入れることがよくあります。

しかし、Aが、上記債権譲渡の制限にもかかわらず、売買代金債権をSに断りなく、Bの担保に供したり、Bに売ってしまったらどうなるでしょうか。

現行民法466条では、債権の譲渡性を認めた466条1項の規定は「当事者が反対の意思を表示した場合には」適用されない(466条2項本文)とされています。したがって、債権者・債務者間の契約によって譲渡を禁止することができます。債権譲渡の制限に違反した債権譲渡の効力は、譲渡当事者間でも無効であると考えられています。

しかし、このような規定は、債権の担保化、流動化の流れに反するという批判がありました。今日では、企業の資金調達の方法として債権譲渡の重要性が高まっているところ、債権譲渡の制限の存在が資金調達目的で行われる譲渡取引の障害となっているとの指摘もされています。

そこで、改正案では「譲渡当事者間の問題」と「債権者・債務者間の問題」とを切り離し、債権者・債務者間の債権譲渡の制限に違反する債権譲渡も、譲渡当事者間では常に有効としました。債権者A・債務者S間で債権譲渡の制限に合意しても、債務者Sは、債権者Aが債権を自由に譲渡することをとめられません。

すなわち、債権者Aが債権譲渡の制限の付いた債権をSに断りなくBに売ってしまい、Bが債務者Sに取り立てにきた場合、債権譲渡は有効なので、債務者Sの債権者は譲受人Bになります。したがって、債務者Sは譲受人Bに支払えばよく、Aに支払う必要はありません。但し、A・S間では、債権譲渡の制限に違反する行為であるため、もし、Sが二重に支払ってしまうなどして損害を被った場合、Sは、Aに対し、契約違反に基づき、損害賠償を請求できます。したがって、今後も債権者A・債務者S間の債権譲渡の制限は一定の意味を持ち得ます。

もし、譲受人BがA・S間の債権譲渡の制限について「悪意・重過失」である場合(すなわち、債権譲渡の制限を知っていたか、知り得た場合)はどうでしょうか。

この点、譲受人Bが「悪意・重過失」であっても、A(譲渡人)とB(譲受人)の間の債権譲渡は有効とされます。したがって、この場合も、債務者Sは、譲渡人Aとの関係では、代金を支払う必要はありません。Bに支払えば、有効な弁済になります。

もっとも、債務者Sとしては、譲受人Bが自分のところに取り立てに来た場合、債権譲渡の制限の存在について譲受人Bが「悪意・重過失」である場合、譲受人Bに対して譲渡禁止特約の効力を対抗することができます。すなわち、支払いを拒絶することができます。

そうなると、債務者Sは、譲渡人Aにも譲受人Bにも支払わなくて良いというおかしな状況になります。

このようなおかしな状態を解消するため、改正案では、譲受人Bは、債務者Sに対して、相当の期間を定めてまず、譲渡人Aへ履行するように催告できます。そして、債務者SがAに支払った場合、A・B間では債権譲渡契約があるのですから、Aは受け取った金をBに渡す義務があります。すなわち、A・B間での紛争処理になります。

これに対して、相当な期間をおいても債務者Sが譲渡人Aに支払わない場合、譲受人Bは債務者Sに自らに支払うよう要求でき、債務者Sは、譲受人Bに対して支払わなければなりません。このような手順を踏むことになります。

また、もし債務者Sが既に元の債権者Aに支払ってしまっていた場合、譲渡制限の存在について譲受人Bが「悪意・重過失」である場合には、Sはその弁済を主張して譲受人Bの請求を拒むことができます。逆にいえば、譲受人Bが譲渡制限の存在について、「悪意・重過失」でない場合は、債務者Sは、譲受人Bに、元の債権者Aへの弁済を対抗できず、改めて譲受人Bに支払わなければなりません。その後、SはAに対して、支払った分を不当利得として返還請求するか、契約違反に基づく損害賠償を請求することになります。

他方で、債務者の利益保護のため、債務者は、譲渡制限特約付の債権が譲渡された場合、供託することができるという規定が新たに設けられる見込みです。すなわち、債務者Sは、譲受人Bから請求されたとき、譲受人Bに支払わずに、法務局に供託することができます。このことにより、債務者は過誤払いの危険を免れることができるようになりました。供託が可能になるという意味でも、債権者・債務者間で譲渡禁止特約を付すことは有効な手段であるといえます。

(3)将来債権譲渡

【ポイント】

  1. 債権譲渡の意思表示の時に債権が現に発生していなくても債権譲渡ができる(将来債権譲渡ができる)ということが、明示された(改正要綱案 第19、2(1)ア)
  2. 譲受人は、将来発生した債権を当然に取得することになる(改正要綱案 第19、2(1)イ)
  3. 譲渡人が譲受人に将来債権譲渡した後に、譲渡人・債務者間で譲渡禁止特約が付された場合に対抗できるかについて、譲受人が上記(1)に述べた対抗要件を具備する前に、譲渡禁止特約が付されたときは、譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなして、上記(2)の規定を適用する(改正要綱案 第19、2(2))。

【ポイントの解説】

現行民法は、債権譲渡時に発生していない債権(将来債権)の譲渡の可否に関する規定を置いていませんでしたが、判例(最判平成11年1月29日等)では将来債権譲渡も可能とされてきました。改正案では、そのことが明文化されました。

(4)債権譲渡と相殺

【ポイント】

  1. 債務者は、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権で、譲受人に対し、被譲渡債権との相殺を対抗できる(改正要綱案 第19、4(2)ア)
  2. 債務者は、対抗要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権であっても、次の場合は相殺を譲受人に対抗できる。
  • 対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権(改正要綱案 第19、4(2)イ(ア))

  • 譲受人の取得する債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権(改正要綱案 第19、4(2)イ(イ))

【ポイントの解説】

現行民法で明確でなかった債権譲渡の場合における相殺による対抗=債務者が譲渡人に対して有する債権のどの範囲までを、譲受人に対して主張し、被譲渡債権と相殺できるか、についての要件が明確にされました。

将来債権の譲渡が広く行われる実態を考慮して、対抗要件具備時より後に生じる債権でも、一定の範囲で相殺対象にすることができるとしました。

たとえば、債権者(譲渡人)Aと債務者Sとの間の継続的な機械売買取引から生じた売買代金債権が、将来にわたって一括して譲受人Bに譲渡されたとします。そして、この将来債権譲渡の通知が確定日付のある証書で譲受人Bから債務者Sに対してなされ、以後、債務者Sは譲渡人Bに対して支払っていました。ところが、あるとき、債権者(譲渡人)Aが引き渡した機械に瑕疵があり、債務者Sは債権者(譲渡人)Aに対して、瑕疵担保責任に基づく損害賠償債権を取得したとします。この場合、債務者Sは譲渡人Bに対して、この債権の存在を主張して売買代金債権と対当額で相殺することができます。

3 まとめ

いかがでしたでしょうか。

債権譲渡制度の見直しにあたっては、改正自体の要否当否を含めて、様々な意見があり、なかなか意見の一致をみることが難しいという状況がありました。債権譲渡の対抗要件に関する意見の中には、確定日付ある通知・承諾に代えて登記に一本化するべきであるというような意見もありましたが、結局、現行法をほぼ維持するだけにとどまりました。

しかし、将来債権譲渡の有効性が規定され、一定範囲で、ルールの明確化が図られる見込みです。また、譲渡制限特約付の債権譲渡の効力は、無効から有効へ大きく転換されました。すなわち、譲渡当事者間の問題と、債権者・債務者間の問題を切り分け、譲渡を有効とする一方で、債務者による供託を可能とすることで利害調整が図られました。このことは債権取引の促進に一定の意義があり、実務への影響も大きいと考えます。

また、現在各企業で使用されている契約書は現行民法が定めるルールをもとに、それを適宜修正して作成されたものと思われますが、改正民法案では相当異なるデフォルトルールとなっていますので、各企業におかれては、改正法案を踏まえた契約書の見直し作業が必須となります。

不安や疑問に思われた方は,一度ご相談ください。

日本法・ニューヨーク州弁護士 川勝明子