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民法が変われば利用規約も変わる?〜民法改正で「約款」ルールが明確化〜

2015.05.07

1 はじめに

近年のインターネットの急速な普及により,さまざまな商品・サービスをネット上で,国境を越えて利用できるようになり,またその契約締結方法,決済方法,データ・物の管理,受け渡し方法も,様変わりしました。便利な反面,新しいリスクの存在も認識されつつあります。

みなさん,これらのサービスの利用申込みの際,【利用規約】の画面に誘導され,スクロールして最後までたどり着くと送信ボタンの横に「○同意する ○同意しない」のラジオボックスがあり,サービス利用を開始するには【利用規約】に同意するように求められるといったご経験はないでしょうか。

 

グローバル化の中の日本のイメージ図

グローバル化の中の日本

【利用規約】では,例えば,返品の可否,代金の支払方法,瑕疵についての処理,SLA(Service Level Agreement),免責条項,裁判管轄(紛争になった場合にどこの裁判所に訴えるか)などが定められています。したがって,【利用規約】は,商品・サービスの提供者と利用者の関係を決める重要なものであるといえます。

ここでサービスを利用しようとする人が「利用規約に同意する」と,その契約の内容に,免責条項,裁判管轄などを規定した【利用規約】の各条項が組み込まれるのでしょうか。

もっとも,以下の例のように,中には「これはどうなのか」と思うような条項が入っていることがあります。

<例>

  • 「ID・パスワードが流出したとしても当社は責任を負いません。」
  • 「サーバー障害によりサービスが利用できない時間帯が生じそれによって損害が発生したとしても当社は責任を負いません。」
  • 「規約は随時変更され,変更後もサービスの利用を続ける場合,同意したものとみなします。」
  • 「準拠法および裁判地の選択。本規約ならびにお客様と当社との契約関係は、抵触法の規定にかかわらず、カリフォルニア州法に準拠するものとします。お客様と当社は、カリフォルニア州サンタクララ郡の裁判所の人的管轄権および専属管轄権に従うことに同意するものとします。」(Google, Facebookなどがこのような規定を使っています。)

このような条項に「同意」することに,抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし,個別に交渉して修正することは現実的には不可能であり,それを結ばないと取引に入れない踏み絵のようなものですから,とりあえず利用規約に同意してサービス利用を開始されるものと思います。そこで,このように選択の余地がない場合でも,「同意」すると【利用規約】の各条項は,すべて契約内容となり,不当とも思える条項にも従わなければならないのでしょうか。

2 【利用規約】の民法上の位置付け

この【利用規約】のように,集団的取引を迅速かつ安全にするために,ある種類の取引についてあらかじめ定型的に定められた契約の条項であって,事業者がこれを準備して多数の個々の取引をしようとするものを,私たち法律の世界では「定型約款」と呼んだり,「普通契約条款」と呼んだりします(新法律学辞典 有斐閣 第三版 1231頁「普通契約条款」参照)。

ところで,契約は,例えば売買契約であれば,「○○を××円で売りましょう/買いましょう」という契約の申込みとそれに対する相手方の「分かりました」という承諾の意思表示によって成立します。すなわち,両当事者の意思表示の合致によって成立します。そして,契約の有効期間中,両当事者は自己が締結した契約内容に拘束されます。

これは「契約自由の原則」があることを前提とした上で,当事者が自分でその契約に入ることを選んだのであれば,それに責任を持つべきだからです(「契約自由の原則」については,2015年3月20付け民法改正に関するブログ記事バランスが大事でも触れたとおり,①契約締結の自由,②契約相手方選択の自由,③契約内容の自由,④契約方式の自由などがあるとされます。)。

しかし,実は,民法の契約法に関する条文のどこを見ても「約款」に関する規定はありません。

3 約款のメリット・デメリット:改正の経緯、趣旨

「約款」は,先の述べたとおりこれまで民法に規定のない契約形態ですが,特定の種類の取引について,多数の相手方との反復取引を迅速かつ安全にすることを可能にするため,事業者の経済的な力によって,銀行取引,運送契約,電気・ガス・水道の供給契約,保険契約等の場面で,事実上多く利用されてきました。契約の一方当事者があらかじめ定めた契約条項であり,ある特定の相手方との契約の内容となるものを含まず,定型になります(オリジナリティがありません)。

仮に無効とされれば,すべては民法等のデフォルトルールに戻り,事業者は不測のリスクにさらされることになります。

この点,一般に約款を用いた契約締結方法は法律上有効と考えられており,裁判例も,古くから約款に契約としての拘束力を認めています(保険契約約款に関する大判大正4年12月24日等)。

しかし,約款の各個別の規定が有効であるかどうかは,価値評価によって決まります。定型約款については,事前の行政的監督や,裁判所の解釈による事後的な矯正が行なわれきました。近時,特に消費者保護・顧客保護の観点からその規制強化の必要が強調され,1977年の西ドイツにおける約款規制法・イギリスにおける不公正契約条項法等,定型約款に対する一般的な規制立法がされています。

このようなことから,今回の民法大改正,すなわち,債権関係規定の「現代化」に向け,「約款」についても民法上で定義し,約款を用いた取引の法的安定性を高めることを主目的として,その法的拘束力に関する規定を設けようという流れになったのです(約款については,2014年7月18日のブログあなたは知らずに拘束されているもご参照ください。)。

4 「約款」に関する民法改正要綱案

最新の民法改正要綱案では,約款に関する新規定として①「約款」の定義,②「約款」の個別条項に明確に合意していなくても「約款」が拘束力を有する要件(「みなし合意」の要件),③「約款」の個別条項が否定される場合(不当条項の効力否定),④「約款」の内容表示義務,⑤ひとたび契約として成立した「約款」を後に変更するための要件(変更要件)が示されました。

5 各条項と実務への影響

以下では,各要綱について説明します。

(1)「定型約款」の定義(要綱第28の1)

定型約款は,要綱で以下のとおり定義されています。

1. 定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行なう取引であって,その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。)において,

2. 契約の内容とすることを目的として,

3. その特定の者により準備された,

4. 条項の総体をいう。

ポイントは,まず,「不特定多数」という概念(不特定または多数ではない。)を用いた点です。すなわち,相手方として,個性に着目しない集団を想定しています。したがって,例えば労働契約は,多数の者を相手にしていても,特定の会社の従業員が相手となるため不特定の要件を満たさず,定型約款には当たらないことになります。

また,「定型約款」の定義は,事業者と消費者との間の取引(B to C取引)に限定されていません。そこで,事業者と事業者との間の取引(B to B取引)に用いられる約款も民法の新規定の対象となり得ます。とはいえ,B to B取引は,個性に着目したものも少なくありません。また,交渉力格差により交渉の余地がなく,契約内容が画一的であるときは「双方にとって合理的」という要件を満たさない可能性があります。

(2)「定型約款」の個別の条項についての「みなし合意」の要件(要綱第28の2(1))

「定型約款」による取引を行なう場合,以下の要件を満たすと,「定型約款」の個別の条項についても同意したものとみなされ,希薄な合意が拘束力を有する合意となります(「みなし合意」)。

1. 定型取引合意(定型取引を行なうことの合意)をした者は,

2. 次に掲げる場合には,「定型約款」の個別条項についても合意したものとみなす

 ア 「定型約款」を契約の内容とする旨の合意としたとき 又は

 イ 定型約款準備者(定型約款を準備した者)があらかじめその「定型約款」を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき

ポイントは,契約の当事者が約款の内容を知った上で,その契約に約款を用いることを合意していたかということです。

上記イの場合,明示的な合意がない場合であっても,「定型約款」が契約の内容となることを知った上で定型取引に合意した場合は,黙示の合意があったと考えられます。したがって,相手方が合理的な行動をとれば,「定型約款」の具体的内容を知ることができる機会を確保している場合は,合意がみなされます。例えば,ウェブサイト掲示による「約款」表示方法も,取引の相手方にとって分かりやすい場所に掲載されていれば,当該要件を満たすものと認められます。

(3)効力の否定・みなし合意からの除外(要綱第28の2(2))

約款による契約締結の実務においては,事前に約款を「知る機会」が与えられていても,実際には利用者は約款条項を逐一読んでいないということがありえます。また,約款が用いられる取引は,多くの場合,多数の相手方との間で画一的な処理が行なわれることが予定されることから,相手方が,約款にはこの種の取引に一般的な内容のみが規定されていると期待することも,あながち不合理ではありません。

そこで,約款が希薄な合意であることに鑑み,一定の条項については契約の拘束力が否定されることがあります。

「定型約款」の個別の条項のうち,

1. 相手方の権利を制限し,又は相手方の義務を加重する条項であって,

2. その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして民法第1条第2項(信義則)に規定する基本原則に反して,

3. 相手方の利益を一方的に害すると認められるもの

については,合意をしなかったものとみなす

ポイントは,約款を用いた契約締結は,相手方の契約内容への合意の程度が通常の契約締結の場合に比して低くても足りるとしたことに対応して,契約内容を必ずしも十分に把握していない相手方に生じ得る不利益を,合理的な範囲に限るために新たなルールを設けたことです。

本規律はあくまで「定型約款」の特殊性(合意に至る経過,合意の程度)を踏まえた判断です。したがって,個別の条項について当事者が明確に合意をしている場合には,個別の合意の対象となった条項については,この新ルールによる保護の対象とはなりません。

また,消費者の保護(消費者と事業者の格差に着目)を趣旨とする消費者契約法10条とは異なるという理解のもと,「定型約款」の個別条項の有効性判断にあたっては,「取引の態様,実情,取引上の社会通念」が考慮されます。

消費者契約法が適用されない企業間取引にも今後,規律の適用があり得ます。

(4)「定型約款」の内容表示義務(要綱第28の3(1),(2))

定型約款準備者は,一般的に「定型約款」の内容表示義務を負います。

約款の内容をいつ,どのような形で表示すべきかについては,以下のとおり要綱で示されました。

(要綱第28の3(1)の規律)

1. 定型約款準備者は,

2. 定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に,

3. 相手方から請求があった場合には,

4. 遅滞なく,相当な方法でその「定型約款」の内容を示さなければならない。

(例外)

定型約款準備者が既に相手方に対して「定型約款」を記載した書面を交付し,又はこれを記載した電磁的記録を提供していたときはこの限りではない。

(要綱第28の3(2)の規律)

1. 定型約款準備者が,

2. 定型取引合意の前において,

3. 上記要綱第28の3(1)の相手方からの請求を拒んだときは,

4. 要綱第28の2の規定(みなし合意)は適用しない。

(例外)

一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は,この限りではない。

当初は,事前開示を基本とすべきという議論もありましたが,相当期間内であれば事後でもよいとされました。

また,請求があった場合の内容表示を原則的形態としたうえで,書面交付,電磁的記録提供をしていれば,それで足りるとされました。

(5)「約款」の内容を変更する要件(要綱第28の4)

取引実情の変化に応じて,当初合意した約款を変更する必要が生じることはありえますが,約款による契約成立後の内容変更の際,契約一般の原則に従い,各相手方から契約変更について個別同意が必要となると,事業者側の負担が重くなるだけではなく,約款で想定する不特定多数を相手とする定型取引に支障をきたすことになります。しかし,約款準備者による一方的な随時変更を許すと,相手方を不当に害する可能性があること,また,変更された条件を検討し契約から離脱する機会を与えるべきではないかとも思えるため,どのように歯止めをかけるか慎重に検討されました。

以上のような問題意識のもと,一度合意した「約款」の内容の変更要件については,以下のとおり規定されました。

 

1. 定型約款準備者は,次に掲げる場合には,定型約款の変更をすることにより,変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし,個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。

ア 定型約款の変更が,相手方の一般の利益に適合するとき

イ 定型約款の変更が,契約をした目的に反せず,かつ,変更の必要性,変更の内容の相当性,この要綱第28の4の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき

2. 定型約款準備者は,1.の規定による定型約款の変更をするときは,その効力発生時期を定め,かつ,定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。

(例外)

3. 1.イの規定による定型約款の変更は,2.の効力発生時期が到来するまでに2.による周知をしなければ,その効力を生じない。

4. 要綱第28の2(2)の規定(みなし合意からの除外)は,1.の規定による定款の変更については,適用しない。

このように,約款の変更が全く出来ないわけではありませんが,その要件は厳しいといえます。定型約款中にあらかじめ変更条項を設けておくことは,必須の要件ではありませんが,変更の可否に関する考慮要素のひとつとされるため,約款を準備する事業者側としては変更条項を規定しておくべきであるといえます。また,相手方は,約款変更の周知を受けて契約を離脱(解除)することも考えられますが,この場合,離脱に伴い通常生じる損害等の填補をどうすべきかについては規定されなかったため,今後実務における理論形成が注目されます。

6 まとめ

今後,民法で約款に関する基本ルールが整理され,どのような事柄があれば,拘束力を有する合意となるか,または,効力が否定されるのか等が定められることにより,約款を用いた取引の法的安定性が高まることが期待されます。約款は作成すれば長期間利用するものですから,約款を用いる事業者としては今から新民法の施行後に向けて約款の見直し等準備を進めることが求められます。不安や疑問に思われた方は,一度ご相談ください。

弁護士・ニューヨーク州弁護士 川勝明子