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ブログブログ

民法が変われば交通事故も変わる

2015.03.06

日常生活の基本ルール「民法」

  我々の生活と最も密接な法律といえば「民法」かと思います。民法は, 法律家の間でも「私法の一般法」と言われ,我々の日々の生活の基本的なルールを定めている法律です。

  現在の民法は, 明治29年(1896年)に, 現行の民法財産編が制定・公布されてからすでに約120年が経ちました(なお, 民法の家族法分野は, 1946年に大日本帝国憲法から現行憲法に変わったのを受けて, 「家制度」を廃止するため, 1947年に全面的に改正されました。)。その間, 社会情勢は大きく変化し,制定当初の民法が想定していない取引慣行等も生じており, 現行民法は, こうした時代の変化に十分に適した法律とはいえなくなっています。

100年に1度のビッグイベント~民法の大改正~

 そのため,現在,民法は,大改正に向けて国会で審議が進められ,平成27年2月24日開催の法制審議会(総会)第174回会議において,正式に「民法(債権関係)の改正に関する要綱」(以下「民法改正要綱」といいます。)が成立しました。改正民法の成立には,今後も様々なハードルがあるかと思いますが,実際に改正法が施行された後には,法律実務に及ぼす影響も極めて大きいと思いますので,上記の要綱で定められている改正のポイントについて,今のうちから,少しずつですが,このブログで解説していこうと思います。

 改正点はいろいろとありますが,私自身が弁護士業務において交通事故を取り扱うことが多く,また最も実務に影響を与えることになる改正点ということで,今回は,「法定利率」の変更について取り上げさせて頂きます(法定利率がなぜ交通事故やその他の実務に大きく影響するのかについては,後ほど説明致します)。

民法の法定利率とは

 法定利率とは,文字どおり「法」律で「定」められている「利率」のことで(これに対し,当事者が契「約」で「定」めた「利率」を約定利率といいます。),現在の民法では,債権に利息が発生する場合に,利率について契約当事者間で別の利率の合意をしない限りは,一律「年5%」とされています(民法404条。なお,商事債権では商法514条で「年6%」と規定されています。)。

 そして,契約に違反した場合の損害賠償額(遅延損害金)も,法定利率と同様に年5%とされているため(民法419条1項),貸した金銭を期限どおり返してもらえない場合には,理論的には,利息のほかに,支払期限の翌日から年5%の遅延損害金を付加して支払ってもらえますし,また,交通事故に遭った被害者が加害者に対して損害賠償請求する場合でも,事故日から年5%の遅延損害金を付加して請求することができます。

取引社会の約定利率

 ところで,なぜ現行民法で法定利率が年5%になっているかというと,民法制定当初の日本の金利(約定利率)と当時の西欧の民法典の利率が参考にされたとされています。

 景気のいい話ですが,確かに,日本でも法定利率よりも高い利率で取引が行われていた時期があったのですが(しかも長期間にわたって),日本経済が低成長期に突入して以降,市場の約定利率は,法定利率よりも遙かに低い状態になっています。

 例えば,今,銀行にお金を預けると,利息(金利)が付きますが,年利でだいたいどれくらいの利率か皆さんご存じでしょうか。

 

 一般的に利率が高いとされている定期預金ですら,高くても0.2%前後ですし,普通預金ではだいたい0.02%前後だと思います。このように金融機関に対する預金債権は非常に低金利であるため,私は昔,そもそも預金口座内のお金には,利息はつかないものだと思っていました。

現実社会とマッチしない「年5%」

 このような現実の取引社会の中で,民法の法定利率だけが年5%というのは,やはり市場の実態及び市場感覚とマッチしていないといわざるを得ませんし,またもともと法定利率というのが民法制定当初の金利も参考にして年5%と定められたという経緯があるのであれば,実際の金利が明らかに低下している現代においては,時代に合わせて法定利率自体を年5%よりも低下させる必要があります。

 もっとも,市場の取引実態(約定利率)は常に変動する可能性がありますので,一律に利率を低下させれば良いというわけではなく,時代に合わせて,法定利率をある程度柔軟に変動させることができるようなシステムを導入することも必要になります(ただし,他方で,頻繁にかつその都度,利率が大きく変動すると経済社会に大混乱が生じるおそれもありますので,経済的安定性にも配慮する必要があり,運用も重要になってきます。)。

改正後の法定利率

 今回の民法改正要綱では,法定利率に関する規定は,以下の内容に変更されることになっています(条文案をそのまま掲げます)。長くて読んでるだけで頭が痛くなってきますが,要は,法定利率は「年3%」に1度低下させ,その後は定期的に, 銀行の貸付利率等を踏まえて変動させていくというシステムにするようです。

【1 変動制による法定利率(民法404条関係)】

  民法第404条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、当該利息が生じた最初の時点における法定利率による。

(2)  法定利率は、年3パーセントとする。

(3) (2)にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、3年ごとに、 3年を一期として(4)の規定により変更される。

(4) 各期の法定利率は、この(4)により法定利率に変更があった期のうち直近のもの(当該変更がない場合にあっては、改正法の施行時の期。以下この(4)において「直近変更期」という。)の基準割合と当期の基準割合との差に相当する割合(当該割合に1パーセント未満の端数があるときは, これを切り捨てる。)を直近変更期の法定利率に加算し、又は減算した割合とする。

(5) (4)の基準割合とは、法務省令で定めるところにより、各期の初日の属する年の[6年前の年の5月から前年の4月まで]の各月における短期貸付けの平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が1年未満のものに限る。)に係る利率の平均をいう。)の合計を60で除して計算した割合(当該割合に0.1パーセント未満の端数があるときは, これを切り捨てる。)として法務大臣が告示する割合をいう。

(注)この改正に伴い、商法第514条を削除するものとする。

法定利率変更の遅延損害金への波及

 さきほど書かせて頂いたとおり,法定利率は,損害賠償額(遅延損害金)にもそのまま影響します。そのため,損害賠償額についても法定利率によって定めるとしていた現行民法419条1項については,民法改正要綱において,以下のとおり, 規定されています。

 

【2 金銭債務の損害賠償額の算定に関する特則 】

民法第419条第1項の規律を次のように改めるものとする。

金銭の給付を目的とする債務の不履行については, その損害賠償の額は, 当該債務につき債務者が遅滞の責任を負った時の法定利率によって定める。ただし, 約定利率が法定利率を超えるときは, その約定利率による。

法定利率が下がると逆に上がるもの?

 以上のとおり, 法定利率は,とりあえず「年5%」から「年3%」に下がるようですが,法定利率の低下によって逆に上昇するものがあります。法律実務上, 特に問題になるのが,交通事故で後遺障害が残存したり死亡した被害者の逸失利益の金額です。

 逸失利益というのは,後遺障害がなければ本来得られたであろう収入(後遺障害逸失利益)や,死亡しなければ将来得られたであろう収入(死亡逸失利益)のことをいいます。

 逸失利益は,将来の損失を現時点で金銭的に評価するものであるため,多分にフィクション的色彩が強いものですが,一般的な算定方法としては,以下のようになります。

 

 後遺障害逸失利益 = 基礎年収 × 労働能力喪失率 × ライプニッツ係数

 死亡逸失利益   = 基礎年収 × (1-生活費控除率) × ライプニッツ係数

 

 以上の計算式のうち, 一般の方でも,後遺障害が残存した場合には,被害者の収入額を基礎として, 残存した後遺障害の程度(等級)に応じた労働能力喪失率(どれくらい将来の仕事・収入に影響するか)を考慮に入れるということまでは,常識的にもわかるかと思いますが,「ライプニッツ係数」というのは聞き慣れないと思います。また,死亡事故においては,死亡時の年収を基礎として計算し,逆に死亡後は生活費がかからなくなるため生活費を控除するところまでは,計算式としてなんとなく理解ができなくもないとは思いますが,ここでも「ライプニッツ係数」というのが出てきます。

ライプニッツ係数?

 ライプニッツ係数というのは, 端的に言うと,将来の損害額を算定する際に,途中で発生するはずの中間利息をカット(控除)するための調整係数のことです。

 例えば,死亡事案で,仮に生きていれば(生活費を控除しても)将来合計で1億円の収入が得られたはずだったとして,被害者の死亡逸失利益が1億円となるとします。しかし,この1億円を現時点で被害者の遺族にそのまま渡してしまうと,たとえ金利の低い銀行に預けても,10年後や20年後には1億円よりも大きな金額になります(ましてや現行民法では法定利率が年5%と定められているため,この法定利率で運用・計算することになれば,手元にある1億円は,1年後には1億0500万円になる可能性があります)。

  逸失利益とは,先ほど述べましたとおり,将来のある時点(※67歳時とされるのが実務上の取り扱いです。)までに得られるはずだった収入のことですから,その時点で1億円がきっちり手元に残るような方法で計算しなければなりません。そのため,現時点で受け取ることになる逸失利益分は,1億円よりも少ない金額でなければならず,現在の年齢から67歳までの期間(これを「労働能力喪失期間」といいます。)を加味して,ちょうど67歳の時点で逸失利益分として1億円を受け取れるようにする必要があり,そのための調整係数が, さきほどの「ライプニッツ係数」というものです。

 このライプニッツ係数は, 民事法定利率の年5%を前提として算出されており, 例えば,教室事例ですが,ちょうど収入が500万円の人が66歳になった日に死亡した場合, 労働能力喪失期間は67歳までの1年間ですから, 年5%の民事法定利率を当てはめると1年後にちょうど500万円になるよう,現時点では500万円に0.9524を掛ける必要があります。具体的には,逸失利益は500万円×0.9524=476万2000円となりますが, これは1年後, すなわちこの金額に1,05を掛けると, ちゃんと,ほぼ500万円(正確には,500万0100円)となります。労働能力喪失期間が1年の場合は,「0.9524」という数字がライプニッツ係数になります。

  このように,逸失利益を計算するに際しては,中間利息発生により被害者が損害賠償額をもらい過ぎないようライプニッツ係数を使用することになりますが,今回の民法改正により,法定利率が「年5%」から「年3%」に暫定的に下がりますので,ライプニッツ係数自体が変動する,というか,ライプニッツ係数が上昇することになります。

  上記の教室事例で考えてみても,法定利率が年3%では,労働能力喪失期間が1年のライプニッツ係数は,私の試算でも,0.9709(=1÷1.03)となります。

 僅かですが,法定利率が年5%だったときの労働能力喪失期間1年分のライプニッツ係数0.9524から0.0185ほど上昇しています。つまり,法定利率が下がるということはライプニッツ係数が上昇することを意味することになるわけです。

  上記の例では,労働能力喪失期間がたったの1年間という例でしたので, それほど違いは大きくないように見えますが,若年で死亡した場合には,労働能力喪失期間が長期に及ぶため,法定利率の変動によるライプニッツ係数の上昇幅がより大きくなり,逸失利益に関して,法定利率変更前(民法改正前)から金額が大きく上昇するという事例も出てくることになります。

 国会に提出された日本損害保険協会の資料(「損害賠償額算定における中間利息控除について」第90回会議資料)によると,一家の支柱であり被扶養者2人の27歳男性の死亡のケースで,中間利息控除割合が5%から3%に変更されたことにより,逸失利益額が2000万円程度増加するとされています。

  以上のとおり,冒頭で書かせて頂いたとおり,法定利率の変動は交通事故実務に大きな影響を与えることになります。

被害者救済と保険会社の負担

 逸失利益の金額が上昇するということは,被害者にとっては,受け取れる損害賠償額が上昇するということですので,民法改正は経済的にプラスの方向への変更ということになりますが,逆に, これによって最も大きく割を食うことになるのは,最終的に損害賠償金の支払を負担することになる加害者側保険会社です(もっとも,保険会社は,この損害賠償額の増加分(自己負担分)を,保険料を増加させることで賄おうとすることも考えられ,そうなれば,結局は保険契約者に皺寄せがいくという可能性もあります)。

 そのため, 今回の民法改正において中間利息控除の規定の導入に, 損保協会は最後まで強く反対しました。法定利率の変動と中間利息控除の議論は切り離し,中間利息控除割合だけは固定にすべきであるという意見もありましたが,これに対しては,中間利息控除の割合だけが高いまま固定されることは被害者救済の観点から著しく不合理であるなどの意見もあり,最終的には, 中間利息控除についても変動制の法定利率を適用することとなりました。

民法改正要綱における中間利息控除条項

 民法改正要綱において一応確定した中間利息控除条項は以下のとおりです。

 

【3 中間利息控除】

中間利息控除について、次のような規律を設けるものとする。

将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、損害賠償の請求権が生じた時の法定利率によってこれをしなければならない。

最後に

 現行民法における法定利率自体が, 市場における約定利率(金利)とかけ離れているため, この利率を低下させる方向での変更が必要だということについては,あまり争いがないかと思います。

 しかし,改正民法の施行による変動制の法定利率の導入は,他の改正部分と比較するとテクニカルな改正ではありますが,さきほどの交通事故の例のように逸失利益計算におけるライプニッツ係数の変動に直結するため,実務的な影響が非常に大きく,また,導入後も定期的な法定利率の見直しが予定されているため,仮に頻繁な利率変動が行われれば経済取引に混乱をもたらすことにもなり得ます。取引社会の実情に合致し,かつ安定した経済取引が実現できるようにするためには,実際の利率変動の運用が最も重要になってくると思われますし,交通事故案件を扱う我々弁護士としても,利率変動の実際の運用を注視していく必要があります。

                                                  弁護士 千葉貴仁