メニューを開く  メニューを閉じる
2017/03/01 日比谷ステーション法律事務所の弁護士名を騙った詐欺にご注意ください
Google+
ブログブログ

あなたは知らずに拘束されている

2014.07.18

弁護士の千葉貴仁です。

東京は、梅雨明け自体はまだのようですが、先日の台風が去ってからというもの、毎日暑いですね。いよいよ夏っぽくなってきました。

 

@石垣島

@石垣島

 

みなさんは今年のお盆休みはどこかに遊びに行く計画は立てましたか。実家に帰省したり、海外に旅行に行ったり、いろいろと楽しい計画を立てていることでしょう。僕のお盆の予定は完全に真っ白ですが。

電車に乗るときどんな契約が成立しているのか?

実家に帰省するにしても、旅行に行くにしても、遠くに出かけるには、みなさん電車や新幹線や飛行機をすると思います。乗車をする前にチケットを買いますが、このチケット購入時に、乗客と鉄道会社や航空会社との間には、どのような契約が成立しているでしょうか。

乗客にはチケット購入時にチケット代金を払う義務は生じており、これに対して、鉄道業者等には乗客を乗車させて乗客と荷物を目的地まで運ぶという義務が発生しています。ただ、双方に発生している権利義務関係はこれだけでしょうか。

「鉄道」、「約款」でググってみるとJRの運送約款なるものが出てきます。これを見てみると(生まれて初めて見ました)、かなり多くの条項が定められています。運送約款の中の旅客営業規則だけでも第1条から第324条まであります。刑法の条文(第1条から第264条まであります)をあっさりと超えてしまっています。

条項をいちいち読むだけでも大変ですが、JRの旅客営業規則の第264条を読んでみると、「係員の承諾を受けず、乗車券を所持しないで乗車したとき。」(同条第1項第1号)には、「当該旅客の乗車駅からの区間に対する普通旅客運賃と、その2倍に相当する額の増運賃との収受する。」とされています。つまり、この場合、乗車区間の運賃の合計3倍の金額を支払わなければならないということです。

また、無効な乗車券を使用した場合(同項3号)や、いわゆるキセル乗車をした場合(同条第2項)も、同様に、3倍の運賃の支払い義務が生じるようです。しかも、これを団体旅客がすると、全乗車人員分の3倍の運賃を、団体申込者が負担しなければなりません(同条第3項)。

他にも、この旅客営業規則にはたくさんのことが定められています。普段、仕事でいろいろな条文を読んだりしますが、単純に「へぇ~旅客営業規則にはこんなことが定められてるんだ~」というのが感想です。

 何が問題か?

僕は、このブログでJRの旅客営業規則を取り上げて、その内容をどうこう言おうというわけではありません。

ここで取り上げる理由は、我々一般の乗客がチケットを購入して旅客運送業者と契約をした場合、契約時には全く知りもしなかった(業者が一方的に定めた)多くの条項が、契約内容となって双方を拘束しているかのように見えるため、これは一見して問題があるのではないかと思われるからです。

法律をカジったことがある人であれば民法のまず始めに勉強すると思いますが、「意思主義」というものがあります。

これは、契約当事者が契約に拘束されるのは、本人同士がそのような内容で約束したから、すなわち意思表示の合致があったからであり、そうでない部分については双方を拘束することにはならないという原則です。実務的にも、契約後になって、契約の一方当事者が「契約の時にはそんな話聞いてなかった」などと言って紛争化するのを防ぐために、重要な契約を結ぶ際には、重要事項説明書への署名・押印が求められたりします。契約当事者間で、情報や専門的知識に構造的なアンバランスが存在する場合には、信義則上あるいは法律上、一方に説明義務が課されているケースもあります(例えば、医師、宅地建物者取引業者、フランチャイズ契約におけるフランチャイザー、投機的性格を有する金融商品を販売する金融業者など)。

しかし、さきほど出てきた旅客営業規則に関しては、乗客は規則を読んだことも説明を受けたこともない方がほとんどだと思います。

「約款」とは何か

旅客営業規則を含め、予め作成された契約条項のうち一定範囲のものを「約款」といいます。「一定範囲のもの」というのはどのような範囲のものかというと、世の中には細かい内容を定めた契約書はたくさんあり、交渉によって契約条件の変更等が可能なもの(弁護士の業務として契約書チェックの対象になるのはこういう契約書です)もありますが、そうではなく、交渉の余地がなくその契約内容に応じるか応じないかの自由しかないものを「約款」といいます。もっとも、交渉可能性の有無だけで約款かどうかをすべて判断できるかは微妙です。

約款は、日常生活において様々なところで使用されています。電気・ガス供給約款、航空運送約款、保険約款、銀行約款など身の回りにたくさんあります。他によくあるのは、インターネットでソフトウェアをダウンロードする際に、膨大な量の契約条件が表示され「同意します」「同意しません」の2択を迫られ、契約条件はほとんど読まず、先に進むためにとりあえず「同意します」をクリックしたりすることがあるかもしれません。

これらの約款は、意思主義という観点からすると、一方当事者が内容を把握していない以上、全く拘束力を持ち得ないことになるのでしょうか。

この点、判例は、「契約の当事者が約款の内容を知らなくても、また約款の内容で契約する意思がなかったとしても、特に約款によらない旨の明示の表示がない限りは、契約者は約款の内容で契約するという意思があったものと推定される」という考え方で処理しています。でも、一方当事者が勝手に定めた内容で、その内容を他方当事者が知らない場合でも、これに合意したと推定されるという理屈は、やはりどう見ても苦しいですよね。

約款はなぜ有効か

 理論的な疑義はあるにしろ、それじゃあ、電車のチケットを買う人に対して、JR等が約款の内容をすべて説明するというのも現実離れしています。なぜ約款が有効なものとして社会で利用されているかというと、やはり大量取引を画一的な条件でかつ効率的に行うために、約款は非常に便利なツールだからであり、理論的な問題よりも利便性が実際上優位にあるからです。

もっとも、一方に非常に有利で不公平な条項が約款に記載される可能性だってありえるわけで、例えば、先ほど出てきたJRの旅客営業規則のキセル乗車の場合、3倍の運賃を支払うという条項が、我々の知らないところで「100万円を支払う」という内容になっていることだって考えられるわけです。

しかし、実際には、約款を使用している業界のうち公共的性格の強いものに関しては、個別の業法が内容に規制を加えており(例えば、保険業法、電気事業法、ガス事業法など)、また国がそれぞれの業界のモデルとなる約款の雛形を作成していたりします。そして、基本的にこれに従った内容を約款で定めておけば、合理的なものとして当該約款が有効に契約内容になると考えられます。

しかし、業法の存在しない分野で実際に約款的に使用されている契約条項は、その内容が合理的なものとして当然に契約内容になるのかは微妙であり、少なくとも約款を使用している業者からすると、自社の約款の内容が裁判で争いになった場合に、有効になるのか無効になるのかわからないという不安定さを抱え込んだまま業務を行わなければなりません。

なお、労働者の労働法関係を規律する各就業先の就業規則の拘束力についても約款法理で説明されますが、就業規則に関しては、労働契約法7条が、労働条件の内容の合理性と就業規則の周知という要件を満たせば、労働契約の内容になることを明示しています。

民法改正審議で検討中

約款は、理論的な説明よりも、社会における実益を優先した現象ですが、そもそも現在の民法が成立した後に生じた、民法の想定していないものであり、理論的な説明が難しいところがあります。現在、進められている法制審議会の民法(債権関係)部会においても、約款をどのように法的に規制するのか等の点について議論され、中間試案が公表されています。民法改正という100年に一度のビッグイベントですが、約款規制法理が適切な形で民法に盛り込めるか、個人的にはとても楽しみです。