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【書評】『世界でいちばん自由な働き方』―グローバル化社会での働き方のヒントが得られる本

2014.06.26

日本及びニューヨーク州弁護士の川勝明子です。

さて今日は、本の紹介をさせていただこうと思います。

グローバル化社会と多様化する働き方

近年、新聞、テレビ等マスメディアで、「グローバル」という言葉を見ない日はありません。

21世紀イメージ図

21世紀イメージ図

貿易の自由化により市場が拡大し、人や物の移動がグローバル化する中、弊事務所にご依頼いただく案件も、海外に進出しようとする企業や逆に日本に進出しようとする外国企業からの相談、国際結婚、国際相続に関する相談等、内容は多様化し、グローバル化しています。

さらに、スマートフォンの出現で、常時オンラインに接続できるようになり、コミュニケーションの仕方も変わりました。また、留学に行かなくても、特別な機器がなくても、Skypeで海の向こうにいるネイティブの人と話せることで、「駅前留学」ならぬ「自宅留学」可能な時代です。

そのような中、既存の価値観、生き方も変化し、働き方も多様になっています。

平成26年版男女共同参画白書(内閣府男女共同参画局作成)では、『家族類型、産業、就業スタイル、個人・社会生活等あらゆる面において変化や多様化が進み、「主力」、「標準的」、「典型的」といった言葉で表せるような特定のモデルはもはや存在しない』と指摘されています。

このような唯一の「正解」のない時代には、先の見えない不安や、どのようにグローバル化社会に対応すればよいかわからないといった疑問もあるかもしれません。

そんな不安や疑問に対し、グーグル、アップル、フェイスブックなどが実践する── 世界でいちばん自由な働き方は、『自由な働き方』するヒントを与えてくれます。

表紙写真

表紙写真

まず、『世界でいちばん自由な働き方』というタイトルに惹かれる人は多いのではないでしょうか。

本書は、アメリカ西海岸サンフランシスコ湾を囲む、いわゆる“シリコンバレー” とよばれる地域に長年住む著者が、『自由な働き方』を実践するための様々なメッセージを、わかりやすく短い言葉で発信しています。

思うに、シリコンバレーほど、生存競争の厳しい場所はないかもしれません。世界中から優秀な人材や資金が多く集まり、多くのベンチャー企業が興っては消えていきます。他方で、その中には、グーグル、アップル、フェイスブックといった、世界的に有名な先端企業であり、かつ、その職場環境の良さも高く評価される企業が成長を続けており、アメリカの中でも最も勢いがある場所です。

筆者は、このようなシリコンバレーについて、なぜバブルがはじけても成長を続ける特殊な地域なのかをその歴史から解き明かし、その特殊性を「生態系」、「実験場」という言葉でズバリ言い表しています。

しかし、この本は、単なるシリコンバレー紹介本ではありません。日本に生まれ、日本で育ちながら、日本を飛び出して、シリコンバレーのいろんな所で現に働いている多くの日本人に対して、著者がインタビューを行い、それが本の途中途中にちりばめられており、臨場感を増します。

インタビューを読むと、どの方の人生もドラマティックでおもしろいものばかりで、こういう人生もあるのかと驚く一方で、帰国子女でも、すごく高学歴であるわけではない、意外に普通の人ばかりである(ように思える)ことにも驚きます。

私が体験した「計画された偶発性」-UC Hastingsへの留学とシリコンバレーの法律事務所での勤務

この本のメッセージの中で、いちばん心に残った言葉は、『計画された偶発性』というものでした。

本書から引用すると、「個人のキャリアは、予期せぬ(偶発的な)出来事の積み重ねで成り立っている」。そして「その予期せぬ出来事をポジティブにとらえ活用することが、最良のキャリア形成のために必要なのだ」という考え方です。

この考え方には頷くばかりでした。なぜなら私自身も「計画された偶発性」を体験したからです。

私は、日本で弁護士になった当初は予期せぬことでしたが、弊事務所所長の池田の強い勧めで、サンフランシスコへ2年間の海外研修に派遣されました。

池田は、弁護士であるとともに公認会計士でもあり、法律的観点と会計士的観点の複合的視野から依頼者に対してトータルでアドバイスを行っています。そして、勤務弁護士に対しても常々、弁護士業以外の様々な経験を積むことの重要性を説き、公官庁への出向、執筆活動、大学講師等いろいろな経験を積み、専門性を身につけるよう勧めていました。

また、ご依頼の内容が国際化する中、私自身、依頼者の相談に深く応えるアドバイスをするためには、多様な文化、社会を知らなければならないと強く感じるようになりました。

そのようなことから、入所後わずか1年半で海外研修に行く運びになりました。

Fisherman's wharf を望む

Fisherman’s wharf を望む

1年目は、UC Hastingsというサンフランシスコにあるアメリカのロースクールでアメリカ法を学び学位を取得し、卒業後2年目は、OPT(Optional Practical Training)という、専門に関わる職業に就いて、1年間実務経験を積める在留資格がありますので、それを利用してシリコンバレーの法律事務所で勤務しました。その後、ニューヨーク州の弁護士資格を取得して、昨年日本に戻ってきました。

こう書くと、順風満帆のようですが、弊事務所は、留学の前例も海外提携事務所や支店等の基盤もなかったため、少し大げさな表現かもしれませんが、単身アメリカ社会に飛び込むというのが実感で、ロースクールを卒業後、最初は、どのように就職活動をして良いかもわからず、履歴書の書き方もまったく分からないという、右も左もわからない状態から始めました。

そのうちに、アメリカの就職活動は日本とは全く違うようだということが分かってきました。

日本では、コネ入社というのはあまり聞こえがいいものではないと思います。公募で、公平性・客観性が重視され、そのために書類上の履歴やテストの点数などが選考の入り口段階では重視されると思います。

これに対してアメリカは、おおっぴらなコネ社会です。ほとんど皆がコネ入社であるため、まったく恥じることではありません。基本的に同質社会で、ある程度均一な質が保証される日本とは異なり、アメリカは多民族国家であり、書類上どんな輝かしい経歴を持っている人がいても、その人がどのような人物であるかはまったくわからないため、採用に際しては、実際に知っていて信頼できる人が優先されます。したがって、人と人との繋がりがとても大切です。

私は、各所を回りたくさんのポジションに応募しましたが、3か月間、無職の時期が続き、コネ社会の厳しさを知るとともに、とても不安でした。その間、短期の派遣の仕事をしたりもしました。

ところが、その後、転機が訪れ、シリコンバレーで特許や国際事件を専門に扱っているMakman&Matz LLPのDavid Makman弁護士と出会い、そこで勤務させていただけることになりました。半ば押しかけに近かったかもしれませんが…。

このMakman弁護士は非常に日本語が堪能で、日本のクライアントからの依頼も受けていました。活発な事務所でどんどんケースを回され課題は山積みでしたが、多くの事件・分野を勉強することができ、とても刺激的でした。

最初はどうなることかと不安でしたが、結果的には、就職活動や、短期の派遣の仕事の中で、これまでの人生では会ったことのないはるかに多様な人たちに出会えましたし、アメリカの実社会というものを肌で感じることができて、とてもよかったと思います。また、グローバル化社会特有のリスクを知ることができたと思います。

長々と自分の話を書いてしまい恐縮ですが、このような自分の体験を振り返って、『計画された偶発性』という言葉がとても、腑に落ちました。

結び

とはいえ、シリコンバレーがすべて素晴らしいわけではありません。私は、シリコンバレーに行った後、より日本の良さも見えてきました。

シリコンバレーでは、すぐに目に見える結果を求められます。多様性故に、わかりやすく数値化できるものが重視され、目に見えない良さを理解しようとしたり、じっくり腰を据えて成果を待つというスタイルには親和性がないと思います。

また、シリコンバレーで、成功しなければという思いにがんじがらめに囚われて自由でなくなってしまっている人にも出会いました。

シリコンバレーでの生き方、働き方だけが唯一の正解ではないということは本書にも書かかれています。著者はシリコンバレーに行けば自分のしたい生き方、自由な働き方ができると言っているのではないと思います。

しかし、シリコンバレーのようなある意味、『不安定な社会』で、自然体で働いている普通の日本人という、ちょっと意外かもしれない存在から、グローバル社会で自由な働き方をするには、失敗を怖れずに一歩踏み出して、挑戦することがより求められていると感じました。