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2017/03/01 日比谷ステーション法律事務所の弁護士名を騙った詐欺にご注意ください
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ブログブログ

「あれっ,払ってなかったっけ!?」

2014.06.15

 弁護士の千葉貴仁です。

代金の先払い(食券制)と後払い

 僕は、つけめんやラーメンが好きで、ほぼ毎日と言っていいほどのペースで食べてます。

つけめん(大盛)

つけめん(大盛)

 昔は、ラーメン屋さんでも、食べ終わった後に代金を支払う後払い制のお店が一般的だったかと思います。しかし、最近では食券制先払い制)を導入しているお店がかなり増えてきており、個人的な感覚ですが、ラーメン・つけ麺屋さんでは、食券制を導入しているお店のほうが多数な気がします。食券制のお店では、入店して食券の販売機で食券を買い、この食券を店員さんに渡して、注文になります。

 牛丼チェーン店でも、吉野家はずっと後払い制のままですが、他の牛丼チェーン店(すき家、松屋等)では食券制を導入しているところの方が多い気がします。

そんなつもりはなかったんです…

 食券制に慣れてしまっていると、たまに後払い制のお店で食べ終わった後、そのまま席を立って何食わぬ顔で「ごちそうさまでした~」とか言って、お金も支払わずにお店を出て行こうとしてしまうことがあります。

 店員さんが慌てて「お客さん!お金お金!!」と止めに入って初めて、ハッと自らの債務不履行状態に気づき、「食い逃げしようと思ってたわけじゃないんです…」と心の中で必死に言い訳しながら、「もちろん最初から払うつもりでしたけど」みたいなドヤ顔をキメて、気まずい雰囲気の中で代金を支払ったこと、誰にでもありますよね(ないか)。

 店員さんは完全に「なにが『ごちそうさまでした~』だよ」的な眼をしていたことを、今でもハッキリと覚えております。ホントに無銭飲食なんてする気はありませんでしたから(念のため)。

つけめん②(大盛)

つけめん②(大盛)

どこからが犯罪か

 さて、このようにお客さんが当初から無銭飲食をする意思もなく、また店員さんも支払未了のお客さんに気づいて止めてくれた結果、ちゃんと代金を支払った場合、(気まずさを除けば)特に問題はないと思いますが、次のような場合はどうでしょうか(以下は、すべて代金後払いのケースを前提としたものです)。

ケース①

 まずは、当初から無銭飲食をしようと思い、お金も持たずに入店し、実際に食事を注文をした場合です。

 これは当初からやるべくしてやった無銭飲食です。詐欺罪(刑法246条1項)が成立することに争いはないと思います。

 どの時点で詐欺罪が成立するのかというと(詐欺罪の着手時期の問題)、判例上は、料理を注文した時点 とされています(大審院大正9年5月8日判決、最高裁昭和30年7月7日決定など)。

 このケースでは、積極的に嘘を言っているわけではありませんが、注文するということは当然代金の支払が前提となっており、支払意思の沈黙は、実際には存在しない支払意思を告知していることと同視しうるものですので、注文行為自体に虚偽性が認められるからです(「挙動による詐欺」などと呼ばれます)。

 もっとも、食べ終わった後に、「やっぱお金払うか」と思い直してちゃんと代金を支払えば、注文時に無銭飲食の意思があったことは他人からは見えませんから、逮捕されることもないでしょう。

ケース②

 次は、当初、無銭飲食などするつもりもなく入店し、注文をしましたが、会計の時になって初めてお金がないことに気づき、店員さんが見ていない隙に逃げ出した場合はどうでしょうか。

 お客さんは、逃げ切ることで代金支払債務を免れることに成功していますが、この場合、実は、詐欺罪が成立しないと判断される可能性があります。

 というのは、最高裁判所(最高裁昭和30年7月7日決定)が、「詐欺罪で得た財産上不法の利益が、債務の支払を免れたことであるとするためには、相手方たる債権者を欺罔して債務免除の意思表示をなさしめることを要するものであって、単に逃走して事実上支払をしなかっただけで足りるものではないと解すべきである。」としており、この最高裁判所の考え方によれば、お客さんが逃走した場合には、お店側の債務免除の意思表示(処分行為)がないため、詐欺罪の構成要件を欠くことになるからです。

 なお、この最高裁の事案では、代金を支払う意思がないのに注文した行為があったため、この注文行為について詐欺罪を認めています(ケース①と同様の扱いです)。

ケース③

 最後に、ケース②と同様に会計時になって初めてお金がないことに気づきましたが、逃走のような強行策は執らず、店員さんに「友達が外にいるんで、ちょっと出てきます。」と嘘を言い、店員さんも「おう、行っといで!」と答えたので店を出たところ、お店の人が追いかけてくる様子もなかったため、しめしめと思い、そのまま逃亡した場合はどうでしょうか。

 この場合には、ケース②と違って、「店員さんを騙して無銭飲食をしたんだから、間違いなく詐欺行為だろ!」と思う方がいらっしゃるかもしれません。

 しかし、意外かも知れませんが、実は、このケースでも詐欺罪が成立しない可能性があります。

 というのは、上記の最高裁の事案では主にこの点が問題となったのですが(第1審・第2審はこのような行為について詐欺罪の成立を認めています)、この点について最高裁は、原判決(2審の判決)「『判示のような飲食、宿泊をなした後、自動車で帰宅する知人を見送ると申欺いて被害者方の店先に立出でたまま逃走したこと』をもって代金支払を免れた詐欺罪の既遂と解したことは失当であるといわなければならない。」と述べて、上記行為について詐欺罪の成立を認めた原審の判断を否定しているからです。

 ただ、ケース②やケース③のように、「会計時になって初めてお金がないことに気づいた」というケースは、実際にあるにはあるかもしれませんが、最高裁の事案(ケース①)と同様に、実際には注文行為時から無銭飲食をする意思があると認定されるケースが一定数存在するかもしれません。また、詐欺罪不成立の可能性があるからといって、このような場面で逃走したり、お店の人に嘘をついてお店を脱出するのは倫理的にどうかと思います。

  ちなみに、お店から逃走した後に、食い逃げに気づいて追いかけてきた店員さんに暴行をすると、強盗罪刑法236条2項)として処罰される可能性があります。

店員さんのミスで釣り銭を多くもらったら?

 タイトルから少し離れますが、例えば、つけ麺(750円)に味付け卵(100円)をトッピングして注文し、食べ終わって、お会計で1000円を渡したところ、店員さんが「750円なので250円のお釣りでーす。ありがとうございました!」と言って、釣り銭250円を渡そうとしてきた場合、どうしますか?

(お釣り多いんですけど…)

(お釣り多いんですけど…)

  つけめんの麺が多いことはとてもいいことだと思いますが、お釣りが多いのはどうでしょうか?これは刑法学上、「釣銭詐欺」と呼ばれる事例です。

 この場合、学説上争いはありますが、店員さんに「100円多いですよ」などと言わずに、その釣り銭を受け取ってしまうことは、詐欺罪(刑法246条1項)に該当する可能性があります(多くの学説はこのようなケースで、お客さんには「100円多いです。」と言う告知義務があり、これを怠った場合に詐欺罪が成立することを認めています。ただ、個人的にはこのような場合に告知義務を認めることは酷な気がしますが)。

 10年以下の懲役に処せられる可能性があるので、ちゃんと「100円多いです」と伝えて、受け取りを拒否しましょう。

 ちなみに、ちょっとした違いですが、お釣りを受け取った後、つまり、お客さんの占有下にお釣りが入ってから初めて「あっ、多い…」と気づき、そのまま持ち去ることは、遺失物横領罪占有離脱物横領罪刑法254条)が成立します。

 さらに、お釣りなどの現金ではなく、何らかの手違いで自分の預金口座に金銭が振り込まれていた場合、誤った振り込みだと知っていながら、窓口でこのお金を下ろすことは詐欺罪になります(最高裁平成15年3月12日判決)。

まとめ

 釣り銭にせよ振り込みにせよ、意図せず自分の手元に入ってきたお金は、自分のものではないのですから、正直に持ち主に返しましょう。「どうせ誰にもバレないだろう」とか「渡した方が悪いんだ」とか「棚からぼた餅!普段の自分の行ないが良いからだ!」などと思ってネコババすると、意外に大きな代償を払うことにもなりませんから。

  全然ブログと関係ないですが、サッカーワールドカップが開幕して以来、昼は仕事、夜はサッカーで、この先1か月いつ寝ればいいのかわかりません。