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内閣法制局と内閣総理大臣の憲法解釈

2014.03.13

内閣法制局は「法の番人」か?

内閣法制局は「法の番人」と言われることがあります。

そのため,内閣法制局の見解は,内閣総理大臣を拘束するかのような印象を受けます。

安倍晋三首相は,国会答弁で「最高の責任者は私だ。政府答弁に私が責任を持って、その上で私たちは選挙で国民の審判を受ける。審判を受けるのは内閣法制局長官ではない。私だ」と述べたことが話題になっています。

この安倍晋三首相の答弁は,集団的自衛権行使否定説を掲げる内閣法制局の見解が憲法解釈で大きな影響力を持っている事態を問題視したものです。

内閣法制局の見解と内閣総理大臣の見解はどちらが優先するか?

では,内閣法制局の見解と内閣総理大臣の見解は,どちらが優先するのでしょうか。

法の規定

まずは,法の規定を見てみましょう。

憲法72条「内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。」

内閣法6条「内閣総理大臣は,閣議にかけて決定した方針に基づいて,行政各部を指揮監督する。」

内閣府設置法1条「内閣に内閣法制局を置く。」

同法3条3号(内閣法制局の事務は)「法律問題に関し内閣並びに内閣総理大臣及び各省大臣に対し意見を述べること。」

これらの法の規定からすると,内閣法制局は,内閣の下部組織にすぎません。

内閣の代表である内閣総理大臣の見解が,内閣法制局の見解に優先することになります。

国民主権原理

また,統治権力の正統性は国民の意思に由来する,という国民主権原理があります。国民主権原理からすると,どの国家機関の権限が優先するのか明らかでない場合には国民に近い国家機関の権限が優先する,という説明があり得ます。

内閣総理大臣は国会議員として国民の選挙を受けます。他方で,内閣法制局は国民の選挙を受けません。

国民に近い内閣総理大臣の見解は,内閣法制局の見解よりも正統性があると言えそうです。

最高裁判所の存在

さらに,憲法81条は「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と定めています。

この憲法の定めは,最高裁判所が「法の番人」であることを明らかにしています。

憲法上は,内閣法制局は「法の番人」とは言えないように思えます。

小括

上記の法の建前からすると,冒頭の安倍晋三首相の発言は,至極当然のことを言っているように思えます。

どうやら,内閣総理大臣の見解が優先しそうな気配です。

 

なぜ内閣法制局が「法の番人」なのか。

では,内閣法制局が「法の番人」というのは妄言なのでしょうか。

実は,そうとも言い切れません。

例えば,「内閣法制局を廃止する。内閣総理大臣がイニシアチブをとって国政を動かす。憲法適合性は裁判所の審査があるから問題ない。事前規制社会から事後救済社会へ。」という考えを推し進めると,国民の不利益が生じる可能性があります。

その理由は次のとおりです。

1 日本の裁判所は,具体的な事件の存在を前提としない一般的・抽象的な違憲立法審査権を有しないから,裁判所の判断が示される機会が少ない。

2 最高裁は,違憲判断を避ける傾向があり,憲法秩序がもっぱら憲法訴訟を通じて形成されるとは言い難い。

3 政府の活動を前提として事実が積み重ねられ,社会秩序が形成されていく。裁判所によって,事後的に政府の活動の前提が否定されると,既成の社会秩序が崩れ,国民生活を混乱に陥れるおそれがある。

内閣が自由に憲法解釈をして行政権を行使して,裁判所による事後救済を期待するという考え方は,国民に不利益をもたらす可能性の大きいものです。

政府の活動が可能な限り合憲・合法であることを担保するために,内閣法制局による専門的技術的なチェックを経ることは,国民生活の利益の観点から重要なことといえます。

この点を強調する意味が,「内閣法制局は法の番人」という言葉に含まれています。

つまり,内閣法制局は,国民生活の利益を図るための統治機構の仕組みの一つと言えます。

正しい憲法解釈とは何か

統治機構の権限配分の目的は,つまるところ国民生活の利益を図るためにあります。

また,憲法は国家権力の行き過ぎを防ぐための仕組みですから,国家権力は正しい憲法解釈に拘束されます。

これらのことを前提とすると,「内閣総理大臣の憲法解釈と内閣法制局の憲法解釈のどちらが優先するか」という議論は,憲法の本質からすると外在的なものといえます。

「どちらの憲法解釈が優先するか」ではなく,「正しい憲法解釈は何か」が探求される必要があります。

安倍晋三首相の発言を契機として,さまざまな意見がメディアやインターネット上で表明されています。しかし,それらの意見の多くは,憲法解釈の衣をまとった単なる政治的な意見の表明といえるかもしれません。

「正しい憲法解釈は何か」については,あらためてブログに投稿致します。